7月17日
いたい。
七尾はそれで目が覚めてしまった。
痛みで目覚めるのが何よりも嫌いな七尾は、最悪な気分で起き上がろうと、して動けなかった。
は?
何で?
昨日は、まあ残業したけれど身体を起き上がらせられないような事はしていない。
デスクワークなので座り過ぎて腰と太腿の裏が痛い、なら分かる。
だから動かせないって何なんだ?
主に腰がダルい。
後次第に、あり得ない場所がじんじんしてきている。
喉もカラカラだ。
風邪でも引いたのだろうか。
何とか寝返りをうつ。
何故、裸なんだろうか?
何故、クーラーがついているのだろうか?
何故、部屋の灯りがついている…。
疑問の正解が台所に立っているのが見えた。
ワンルームだもの、見える。
男が、見える。
七尾の部屋着を着ている。
少し窮屈そうに着ている。
そして鼻歌を歌いながら、台所で作業している。
我が物顔で作業、している。
ふんふふん、と歌いながら男が両手に皿を持つ。
そうして七尾が寝ている洋室にやって来て、皿をテーブルの上に置いた、ところで目が合った。
「おはよ。朝ごはんだよ」
爽やかな笑顔だった。
ふんわり赤味がかった茶髪の男だった。
手足が長く、スタイルが良く、面構えも良い。
だから七尾の部屋着も恰好良く着こなしており、上下合わせて980円だとは到底思えなかった。
「きょーって会社?だよな?多分。スーツ着てたし…ああ、アイロン掛けといたからシワ大丈夫。シミも付いてないよ」
安心して?と言われても、七尾はある一つの感情に支配されてて何も聞こえてない。
殺意。
殺意とはこういうものなのだと七尾は理解した。
人は何故衝動的に殺人を行うのか。
今、その、心理が理解出来た。
七尾はその衝動のままに行動したかった。
けれど身体が動かない。
主に腰がダルい。
そして不愉快な痛みが、信じられない行為をしたんだって七尾に現実を突きつけてくる。
殺意が、収まらない。
「俺は
そんな殺意知ってから知らずか、
テーブルの上には皿が2枚。
トーストと目玉焼きとベーコンが綺麗に盛り付けられていた。
「七尾、サン?だよな?名刺に書いてあった。七と八、漢数字同士よろしくー」
何が面白いのか
軽薄そうな笑いだったらどれだけ良かったか。
七尾は殺意の視線で
「七尾サン、8月1日には消えるからさ」
「あ…?」
「7月31日まで居させて」
悪びれる様子も無い。
それが殺意を最高頂にさせた。
「嫌だ出てけ」
殺意を口にしなかったのは、昨日簡単に気絶させられたから。
正面から戦っても勝ち目が無くて、また、襲われたら。
そして目の前から直ちに消えて欲しかった。
とにかく殺意で七尾は、冷静でいられない。
「まあまぁ、あ、晩御飯作っておくね、洗濯と…風呂掃除もしとく」
まるで話を聞かない七尾が悪い、と言うような反応に手が出る。
ぱしっと取られてしまう。
圧倒的に筋力差を、体格差を、昨晩を、思い知らされ思い出さされてしまう。
「いい加減にしろ!」
それでも殺意で冷静でいられない。
だって犯された。
犯した犯罪者が侵入者が偉そうに居座ります、だと?
ふざけるな。
でも身体が思うように動かせない。
出勤時間、差し迫って来てて、不安でしかない。
「はいはあい。今夜はチャーハン作るから…ほら早くご飯食べなよ、お仕事行かないと、だろ?」
「っっつ!クソ!」
会社に遅刻する訳にはいかない。
七尾は言われなくとも、と目の前のトーストをかじった。
「…」
昨日の朝、自分で焼いて食べたはずなのに何故こんなに美味いのか。
目玉焼きが半熟で美味い。
ベーコンカリカリで、食べたかったやつ…。
腹立たしい。
けれど遅刻は出来ぬ。
七尾は介助されながら顔を洗い歯を磨きスーツに着替え、家を出た。
「いってらっしゃい七尾サン」
「…出てけよ」
「はいはあい」
笑顔で見送る
腰はダルいけど、もう我慢出来た。
酷い夏日帰宅する時間のもやりとした空気。
どろげぞう、だと、ちょい残業して帰宅した七尾は玄関の扉を開けた。
はたして涼風が頬を撫でる。
クーラー切り忘れた?
と、涼に慌てたら、
「おかえり、七尾サン」
「…まだ…居たのかよ…」
仕事で忘れていた男に出迎えられ、七尾は殺意を思い出した。
洋室に入る前の通路にある台所、包丁で、背後から。
そう、しよう。
そう、しよう。
衝動で行動を。
「今夜の晩ごはんは、えびチャーハンとよだれ鶏と卵とわかめの中華スープだよ」
「…」
思わずゴクリと唾を飲んでしまった。
こんな小さな台所でよくもこんな美味そうなものを作ったものだ。
特によだれ鶏って何だよ、美味そう…。
「お風呂湧いてるから、はい、着替え」
「…ん…」
七尾は一旦、一旦、殺意を抑え込んだ。
飯を食ってから通報してもいいのだし。
そうだ相手は犯罪者なのだし。
落ち着いて、行動しよう。
綺麗に掃除されたお風呂で癒されてしまった七尾は、一先ずは7月31日まで居させてやってもいいか、と思ってしまった。
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