第三話 恋愛感情は、赤い色。(前編)

 わたし、みていたよ。


 あの日は、夏、真っ盛りで、とても暑い日だったね。


 その中で、あなたが、道路の真ん中にいた、1匹のクモを、その道路の脇にある、花壇の中に連れて行って、助けてあげるところを……。



 その日の明一(めいいち)は、そんなに重くはない、にもつの入ったリュックを、背中に、からって…(からう、…とは……北九弁で、背負(しょ)う、…と、言う意味。)、うだるような暑さの中を、歩いて、移動していた。


 今日する事の、目的地に、向かって……。


 シャワシャワと鳴いているセミ達も、今が稼ぎ時だ(?)…と、言わんばかりに、積極的に、活動していた……。


 確か、あのクモを助けた、あの日は…7月の下旬で……。


 オレは、あの日が、7月の何日だったかまでは、よくは…覚えては、いなかったけど……。


 オレの中では…あの時の時期が、夏だった、…という事くらいにしか、頭になくって…オレは、ちゃんと、記憶して、いなかったな……。

 あのクモとの事は…オレにとっては、日にちまでは、覚えておく程の事では、なかったから……。


 その後で、彼女ーーカガミから、あのクモの話を、聞かれた時に、カガミから、その確かな日にちを、教えてもらったんだよ……。


 オレの事、だけどな……。自分の事なのに…自分で覚えていないというのは……どうなんだろう…とも、思ったけど……。(苦笑)


 だけど…正直、カガミの、自分の事ではない、ひとの事を、よく、覚えている事には、よく、覚えているな……と、少し彼女の事を、関心したっけ……。


 その、カガミの話では、あの日は、7月の23日、…と、言う事だったな……。


 オレ的には、もしも、カガミの、カン違いだったら、どうしよう……。…と、少し、心配をしたりも、したけれど……。誰にだって、記憶違い、というものは、あるからな……。


 今となっては、いい思い出で……。…と、思い出…だからと言っても……現在進行形に、変わりは、ないけどな……。


 たとえ、カガミから言ってきてくれている事だからと言っても……教えてもらった事に、心配してしまうのは…オレ的には、まだ、彼女の事を、信用しきれていない、という事からだろうか……。…と、自己分析して、思うけど……。


 ただ、女の人は、そういう事を、よく覚えているみたいだから、問題ないだろうな、…とも、思うけどな……。



 ここは、日本の中にある、北九州。


 今の、この季節。

 歩いていても、汗は、かくし。歩くのをやめて立ち止まっても、これまた、汗は、かく。

 つまり、今のこの季節、動いていようが、止まっていようが、どっちにしたって、外に、いる以上は、この熱気の中では、汗を、かく事に変わりは、ないのだ。

 着ている服も、かいた汗を染み込んで、湿っているし……。

 そのせいで少し…体に、まとわりついてくるティーシャツのせいもあって……オレは少し、苛立っていた……。



 今回の物語は、そんな季節の中にあった、明一(めいいち)とカガミによる、ある1日での、ふたりによる、あの時間から、はじまった……ひとつの『はじまりの灯り』の、物語。


 あの時…明一(めいいち…)…の、とった、ひとつの行動に、関係していた、明一(めいいち)…と、カガミの、ふたり……。

 だけど、明一(めいいち)…が、とった、明一(めいいち)…に、よる、あの行動は……明一(めいいち)…本人に、とっては、何も、特別な事とは、思っていなくって……。



 あの時の、明一((めいいち)…の、とった行動で、明一(めいいち)…と、カガミという、ふたりが、それぞれに、みはじめた、ふたりの時間の中での、ふたりの間で灯りだした…ひとつの灯り。


「ねぇ、明一(めいいち)。どうして、あのクモを、助けてあげたの?」


「ん、ああ……いや。ただ単に、車などに、ひかれてしまうのを…見たくなかった、だけだよ……」


「……」


「だけど、いざ、移動させようと触ったら…あのクモ…動かなくってな……」


「そうなの?」


「ああ。最初は、死んでいるのか? …とも、思ったんだけどな……。よく考えたら、あの時、暑かっただろ?」


「うん」


「だから、死んでいたんじゃなくって、ただ単に…暑さに、弱っていただけだったみたいで……。あの時、アスファルトは、直射日光で、ものすごく、熱くなっていたから……」


「そうなんだー」


「ああ。それで、あのクモが、生きていた、その証拠に、花壇には、花が植えてあったから、その花壇の日影になってる土の上に、移動させたら、すぐに、動きだしたよ……。手のひらの上に乗せていた時には、ピクリともせずに、全然、動かなかったのにな……。暑さで弱っていたから…だろうけど……。ま、そのおかげで、スムーズに移動させる事が、できたから、よかったけどな……」


「そっか。うん。そうだね」



 ……。


 鏡未(かがみ)……。


 明一(めいいち)は、ぼーっとした意識の中で、その、今は亡き、明一(めいいち)の番い(つがい)…である、そのひとの名前を呼んだ……。


(番い(つがい)…とは、結ばれて、お互いに、片割れ、と、なる事……)。

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