第二話 その涙の理由は……。

 今のわたしには、もう…自分の生まれ育った母国なのに…帰れる場所は、どこにもなくって……。

 これまで、あたりまえだった…わたしが居る事ができた、この場所は……今ではもう……わたしの存在と一緒に……抹消されてしまった……。

 世界中の、どこに行ったって…本当に行く宛てさえも、ないんだよ……。


「“あのひと”の事を……よろしく……お願いします……」


 あの時わたしは、そんな事……言いたくなかったよ……。


 本当は、もっと一緒に……いたかったんだよ……ーー



 ここは、シンガポール。

 果実のオレンジが盛んな土地柄で、マフィアの巣窟となっている国でもある……。


 だけど、その国の実態は……国家の、最重要国家機密になっている、シンガポールの国全体の治安の悪さからの、自分の国で、マフィアをつくって、国の治安を安定させる、というのが、目的の国だった……。


 その、シンガポールの大統領の奥さんが、シンガポールの国内で、マフィアをつくる為に、国を出て、その存在を、国家から抹消された……。


 そして…どこの国にも属していない事から、世界中を拠点に、活動する事ができる、国家プロジェクトである、自分達でつくった、その組織群である、マフィアの活動の対処法として、マフィアと同じように、世界中のどこの機関にも属さない、国際警察機構“インターポール”もつくって、世界中のマフィアを監視し、取り締まっているのである。


 シンガポールという国は…理由はどうあれ……自分達のとったその行動には、ちゃんと責任をとる、…と、いう……国なのだろう……。


 そこに関しては、オレは、いい事だと、思う。


 だけど…それ以上に、オレは思うんだ……。


 いくら、お互いに、納得して、選んだ行動だったとしても……1番“たいせつなひと”を哀しませ……その“ひと”から、しあわせそうに笑う…その笑顔を奪い、失わせてしまった事……。


 その結果……お互いに、慟哭の中で生きていく事を…選んでしまった事……。


 その事には…涙が、でます……。

 その事になら……オレにも、わかるから……。


 だけどだ……。


 だからこそオレは、あんた達、国家を、許す事は、できないんだ……。


 たとえ、どんな理由があったとしても……もしも、あんた達が、その時に…その選択肢を選ばなかったとしたらだ……少なくとも、今回の国家プロジェクトによって、オレ達のたいせつなひとが、あんな目に遭う事は…なかっただろうからな……。


 その事を…どうしても……許す事ができない。


 だからオレは、オレがつくったオレの組織を持って、ここに乗り込んで来た。


「国を潰す。あんた達、自分達のプロジェクトで、つくられる事になった組織である、そのマフィア…タランチュラの、力によってよ」


 ……。



 ーーマフィア…タランチュラの国家転覆未遂から、数日後……。ドバイ、にて……。ーー


 ここ最近のオレは…やけに、殺気だっている……。


 どうして、オレが今いる、この世の中というものは…こうなのだろうか……。


 マフィア…だからと言っても、組織の人員が、悪、…というわけではない。


 確かに、その体には、刺青(いれずみ)が彫ってあったり……。

 タランチュラの家紋の刺青も、左手の甲に彫ってあるよ……。

 一生、体から消える事はない、体の一部だよ……。


 基本、入国した、その国の法律や警察などにも、まったく関心がないから、チャカ(銃)を、体のどこかに隠し持っていて、装備していたりも、するけどよ……。


 だけど…ひとの事を考えて、行動している組織は、少なからず、あるのだ。


 オレの組織も…そうであると…思いたい……。


 確かに、今、オレがいる、この現実は……常識がない世界で…不法が蔓延(はびこ)っている世界…だけどよ……。


 また新しく、ファミリー(仲間)をつくって、また、その誰かと一緒に、同じ時間を過ごし、一緒に笑い合う事が、できたなら……。その時間を、その誰かと、また一緒につくって、ともに生きていく事が、できたなら……。そうする事が、できたのなら……オレも少しは、“彼女”と一緒にいた時のように…おちつく事が、できるのかも、しれないけどよ……。


 ……。


 物事を分析するのは、いいとしてもよ……何を考えているんだ…オレは……。

 さすがに……それは、できないだろ……。


 この“ひと”だと、心で決めた以上は、他のひとには、いかないよ。


 だけど…“彼女”の変わりとなる人は…世界中の、どこをさがしたって……いるわけは…ないんだからよ……。

 なぜなら、“彼女”は……世界で、たったひとりの存在…なんだからな……。

 たとえ新しく、“彼女”とは違う、他の誰かをファミリー(仲間)に迎えて、ともに生きる事が、できたとして…そのひとと一緒にいる事で……この、さみしさを…意識しないでいい時が、あったとしてもよ……オレと“彼女”との慟哭は…たぶん、オレが存在しつづける限りは…ずっと…なくなる事は、ないのだろう……。 誰にだって……ここに存在している以上は、ひとそれぞれ、光と影、を、その身にまとって……歩いているんだろうからよ……。


 だけど“…国家転覆なんて、大それた事をした、オレのせいで、“彼女”の身を、危険にさらし……オレ独りだけになってしまった、オレの組織……。


 たとえ、組織の中で、オレ一人だけになっても……どんな理由があろうとも……自分で、はじめた組織を、見捨てるような事は……しないからよ……。


 ……。

 それは……ひとに対しても…同じだよ……。

 何をやっているんだ…オレは……。

 カッとなって……仁義が、頭に、なかったよ……。


 だけど……“彼女”とまた、一緒にいる事ができたなら……。


 オレは闇に堕ちる事は、なかったのかも、しれない……。


 たとえ、この魂、闇に堕ちようとも……ひとの道の…仁義だけは……失わないようにするからよ……。


 それが…“彼女”である…おまえとの繋がり…だからよ……。

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