悲しみのための第二節

 一体いつからこうなった?

 私はいつも疑問に思っている。「こうなった」前から、たぶん、ずっと。

 思えば因果というあの男が全て悪いようにも思うが、彼とて国の犠牲になった愛国者なのだ。

 なら、誰が悪い───誰も悪くない?それは、悲しいな。

 その悲しみの結論に至ってなお、私はテレビの中で電車に乗っている彼女に、同情せざるを得ない。

 可哀想に。君はこれから歓びなど一片もない、絶望の中を泳いで行かなくちゃならないんだ。

 できることならすぐ彼女のもとに行き、手を引いてどこか遠いところに連れて行ってあげたい。

 けれど、それはできない。

 私も所詮自分が可愛いだけの糞野郎で、それを認めなくちゃならない。

 はーっと、深いため息を尽く。

 嗚呼、私はいつからこんな空っぽになった?

 ───考えればすぐにわかるのだ。

 あのとき。

 私がこの世界の真実を知り、上位存在としての目覚め、覚醒をしたとき。

 あのとき、私は空虚な人間になり、人間性を吐き捨てた。

 人間性───そういう意味では、因果は実に人間らしい。

 自分の欲望のためだけに生き。

 自分が生きるためだけに他人を蹴落とし。

 他人を蹴落とすことに喜びを感じる───そしてほれが欲望へ直結している。

 単純な、しかし人間のシステムとして完成されたような彼の前に立った私は嫌でも自覚させられる。

 私は、人間として───上位存在としてではなく、単なる人間としてだけ見るのならば───この因果という男より数段下の、塵屑のような存在なのだ。

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