おまえにおまえと言われたくない

星屑肇

おまえにおまえと言われたくない

静かな街角にある小さなカフェ。その喧騒から少し離れた席に、アキラは座っていた。「あいつとまた会わなきゃいけない」と、思わずため息を漏らす。彼が思い描くのは、無口で頑固な幼馴染、ダイスケだ。


ダイスケはアキラにとって、唯一無二の親友であり、同時に最大のライバルでもあった。二人は生まれた時からの付き合いだが、互いの性格は正反対。明るく社交的なアキラに対し、ダイスケは神経質で一緒にいると重苦しい雰囲気を持っている。にもかかわらず、互いに欠かせない存在となっていた。


カフェでの待ち合わせは、少し緊張する。アキラは心のどこかで、ダイスケと会うのが嫌だと感じていた。最近、彼は何かに苛立ち、会った時にどう切り出すか考えあぐねている自分がいた。


「お待たせ!」突然の声にハッとする。ダイスケがカフェのドアを開けて入ってきた。さっぱりとしたシャツにジーンズ、髪は全くの無造作風だが、その姿はどこか決まっている。アキラは苦笑を浮かべながら手を振った。


「よ、久しぶり。元気だった?」


その問いに対し、ダイスケはわずかに眉をひそめ、短く「まあな」と答えた。その一言に、アキラはなんとなく彼の心の距離を感じた。話が弾まないまま、互いにコーヒーを頼み、しばらく無言の時間が流れる。


いつもとは違う空気が漂っていた。アキラは沈黙を破ろうと試みる。「どう最近の仕事は?前よりやりがいがあるって言ってたよな?」


しかし、ダイスケの反応は冷たかった。「まあ、そんなもんだろ。」


「おまえにおまえと言われたくない」という言葉が、アキラの心にひらめいた。たとえ幼馴染だとしても、そこには戸惑いや遠慮があるのだ。


そのまま話題を変えることにしたが、否応なく二人の気まずさは続いていた。アキラはなぜか、自分がダイスケに対して憤りを感じていた。彼の素っ気ない態度に、彼自身が持つ理想とのギャップが、次第に自分を萎縮させていた。


「お前、そういえば最近、他の友達とはどうなんだ?」アキラが思い切って質問した。ダイスケは一瞬、微かな動揺を見せたが、すぐに素っ気なく答えた。「ああ、まあそれなりに。」


アキラは申し訳ない気持ちになりながら、さらに歩み寄ろうとした。「いや、俺もさ、最近新しい友達ができて、楽しい時期なんだ。お前も一緒に行こうよ、みんなで遊びに。」


ダイスケは少し目を細めた。「お前はお前で楽しそうだな。俺はもういい。」その言葉はアキラの胸を刺した。彼は強い苛立ちを抱え、思わず視線を逸らした。


その時、アキラは自分たちの関係の根本に触れようと決心した。「ダイスケ、これからどうするつもりなんだ?一緒にいる意味があるのか?」


ダイスケは驚いた表情を浮かべ、少し沈黙した。そして口を開く。「俺だって、いただけるのは苦痛だ。お前がどうしてこうなったのか、もう理解できない。」


その言葉がアキラを深く傷つけた。幼い頃の無邪気さや友情に寄り添う感情は全く感じられず、彼の中の思い出が一瞬にしてパッと消えてしまった。


「おまえにおまえと言われたくない!そうまでして、お前に合わなくてはならないのか?」アキラは思わず叫ぶように言ってしまった。自分の心の奥底にあった感情が一気に噴き出し、ダイスケの目を真っ直ぐに見た。


ダイスケは、しばらく無言だったが、次第にその表情を柔らかくして言った。「俺は、いま自分を守りたいだけなんだ。だから感情を出したくない。」


その瞬間、二人の間に再び静かな時間が流れた。アキラは彼の横顔を見つめ、過去にあった友情の温もりを覚えた。負の連鎖が二人を引き離すのではなく、記憶を取り戻すことで一歩踏み出せるのではないかと感じ始めていた。


「お前がそれを言うなら、俺はもっと話がしたい。無理に笑わなくても良いから、気持ちを知りたい。」アキラは心から願った。


ダイスケは小さく頷き、少しずつ心を開く兆しを見せた。朝陽が差し込む中、アキラとダイスケは再び友達になれるかもしれないと感じた。この困難な瞬間こそが、彼らに新しい道を示している。お互いの本音を共有しながら、もう一度関係を築き直そうと決めた。

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おまえにおまえと言われたくない 星屑肇 @syamyu

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