朝のエレベーター

朝のエレベーター

今日はいよいよバニティネルをかけながら出勤である!!


「おい、衝突防止機能があルカらって調子に乗んなよ?こうやって視界が塞がってる間にやらかすんじゃねえのか?」


そんな晋太郎の声を聞き流しつつエレベーターに乗った


佐川くんにかなり直前まで気づかかなかった


ドアが閉まり、二人きりになった狭い空間。

白葵はわずかに視線を落としながら、軽く「あ、おはようございます」と口を開いた。声は少し震えているのを自覚しつつも、自然に聞こえるよう努めた。


佐川は一瞬だけ目を合わせ、ぎこちなく「おはようございます……」と返す。

言葉少なだが、確かに声は届いた。沈黙がすぐに戻る。


「……今日、ちょっと寒いですね」白葵がついぽつりと言う。

佐川は少し驚いたように目を細め、しかしすぐに頷いた。「ええ、風が強いですし……」


言葉は続かなかったけれど、その一言が二人の間の空気をほんの少し柔らかくした。


エレベーターが揺れたその瞬間、佐川がそっと白葵の方へ手を伸ばした。けれど触れるか触れないかの寸前で、手を引っ込める。


「……」言葉はないまま、佐川は軽く目を逸らす。白葵もまた、その沈黙を胸に刻んだ。


ドアが開き、二人は同時にオフィスの中と歩み出す。ぎこちないけれど、確かな気配を残して。


そこへ、美晴がすっと近づいてきた。白葵を見るなり、にやりと口元を歪める。

「同伴出勤? 夜の仕事じゃないんだから……」

美晴の言葉には軽いからかいが込められている。白葵は顔をわずかに強ばらせ、返す言葉を探したが、特に何も言わずにその場をやり過ごした。

美晴の存在が二人の間の空気を少しだけ引き締め、白葵の胸の中で新たな緊張感が芽生えた。

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