最愛の

星川過世

プロローグ

 家は嫌いだ。


 前時代的な価値観を振りかざし、まるで自分が全て正しいかのように振る舞う父。

 「理想の息子」を作り上げることに執心し、少しでも気に入らないとすぐに手をあげる母。

 大学生になった俺には、独り暮らしという選択肢が与えられた。

 こんな家とはさっさとお別れしたい。


 でも俺は家を出て行ったりしない。俺には弟が居るから。

 真っ直ぐで、不器用で、世渡りが下手な弟。

 あいつ一人残して俺だけ出て行くわけには行かない。


 だって俺は、お兄ちゃんだから。

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