第6話 女子校あるある
「さてさて。今日はね、知識のない東雲怜奈ちゃんに女子校というものを教えてあげようと思うのさ♩」
昼休み。昼時は俺の机の周りに集まるのが日常と化してきた今日この頃、さくらがいきなり変なことを言い出した。
曰く、中学時代は共学だった俺のために女子校の厳しさを教えてくれるとのこと。いきなり始まったので少しびっくりしたが、考えてみればだいぶ興味深い内容である。
俺はカツサンドを口という名の処刑台に送り込みながら話を聞く。
「具体的にはどんなことを教えてくれるのかしら?」
「ふっふっふ。落ち着きたまえよ、ひよっこちゃん。まずは美香が話してくれるから」
「え、わたしですか?えーと、何から話しましょうか…」
あれ、打ち合わせしてたわけじゃないんだな。てっきり他2人はこの話をさくらから事前に聞いていたのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
美香は困り顔で数秒考え、その後菓子パン片手に語り出す。
「そうですね、じゃあわたしからは『派閥』について話しましょうか」
「派閥?」
「そうです。簡単に言えば仲良しグループのことですよ。怜奈も中学時代で経験しているでしょう?クラスの一軍とか、二軍とか、そーゆーやつです」
「ああ、それなら分かるわ。私一軍だったもの」
俺がそう言うと、3人とも「だろうね」と笑いながら頷いてくれた。
俺は容姿がいいからな。特にイキったり、誰かを虐めたりはしていなかったが、中学時代は一軍でキラキラした生活を送っていたのだ。
「ですが、派閥というのはそのようなスクールカーストとは少しだけ違うんですよ。派閥の例を挙げると、例えば『お金持ち派閥』とか『恋人持ち派閥』とか。スクールカーストも勿論ありますが、女子校だとこういう派閥ごとのグループというのが強く形成される傾向があるんです。要は性格とか家の事情とかが近しい人同士が固まりやすいってことですね」
「なるほどね。じゃあ、ザ一軍みたいなキラキラした人たちでも、その中で貧乏裕福がバラバラだとしたらグループとしての団結力は低いということかしら?」
「その通りです。最初は一緒に固まっていたとしても、だんだんブランドマウントとか、普段行く店の違いとかで関係性が崩れてきて、いずれは裕福な人、貧乏な人で固まるように自然崩壊していくんですよ」
「ええ……。怖いわね、派閥って」
「そうなんです。人間の闇が詰まってますよ」
苦笑いしながらそんなことを話す美香だが、目が死んでいるあたり美香にも思い当たる節があるのだろう。あまり触れない方が良さそうだな…。
にしても、派閥ねぇ。
あんまり深く考えたことはなかったが、確かに同性同士だとそーゆーグループ構成が出来上がるのかもな。根本的な要因は他者へのマウント精神だろう。「私はみんなより綺麗だ」「私はみんなよりお金がある」「私にはイケメンの彼氏がいる」
そんな考えを持った人同士が集まってグループを作っていくというのは理解できる話だ。めっちゃ怖いけど。
「ちなみに、みんなの家はお金持ちだったりするの?」
「めっちゃ普通だね」
「めっちゃ普通ですよ」
「めっちゃ普通〜」
「なら良かったわ。私の家もめっちゃ普通だから」
まあ、この前みんなでファミレス行ったくらいだしな。ガチの金持ちだったらファミレスなんて行かないのだろう。
…けどそれって本当に楽しいのか?
俺は高級店でご飯を食べるより、ファミレスみたいな庶民的な所でみんなでワイワイしながらご飯を食べる方が好きだ。庶民バンザイ!
「じゃあ、美香がさっきブランドマウントの話を出したから、あたしはその話でもしようかな!」
「確かに言ってたけれど、それって何なの?」
「そのまんまだよ。例えば休日に友達と遊ぶとするじゃん?その時に『あの子が着てる服ってどこどこのやつだよね〜。あんな店の服着れないよね〜。私はあそこの服着てるのに〜クスクス』みたいな現象がよく起こるの。これがブランドマウント」
「え、ひどっ!」
「そう!めっちゃひどいの!だけどこれが普通なんだよね女子校だと」
「過酷なのね……」
「化粧品とかは特にですよ。みんな普通に教室で化粧してますけど、その時に安い化粧品なんて取り出そうものなら即座に金持ち派閥から笑い者にされますからね」
「だね。ウチもやられたことあるわ〜」
「じゃあ具体的にはいくらくらいの化粧品を使えばいいの?」
「具体的な値段ってよりは、ブランドイメージの方が大事だね。安い!そこそこの品質!大容量!みたいなブランドって結構あるじゃん?そーゆーのを使ってると確実に笑われるから、高い!高品質!小容量!みたいなブランドのやつを使えば問題ないね」
「それは……うん、なかなか難しいわね。私って化粧にあんまり詳しくないからすぐ笑われそうだわ」
「「「え?」」」
俺の言葉に、みんなが目を丸くして驚いた。
3人からの視線を浴びる俺は、同じく「え?」と苦笑いしながら尋ねる。
「…何か変なこと言ったかしら?」
「え、いや、怜奈が化粧詳しくないとか、そんなことある?って思ってさ。怜奈ってめちゃくちゃ綺麗だし、化粧上手そうなのに」
「同じです!」
「ウチもウチも」
「そういうことね。だけど、褒めてくれるのは嬉しいけれど本当に化粧はよく分からないわ」
そもそも俺は元男だからな。化粧のけの字も知らないような人生を送っていたのだ。そしてそれは今世でも大して変わらない。口紅を塗ったことくらいしかないぞ。
「じゃあ今度みんなで怜奈に化粧のなんたるかを教えてあげるしかないね!」
「ですね!」
「とんでもない顔にしちゃおう〜」
「1人悪い輩が紛れ込んでなかったかしら?」
「ウチではないね」
「あなたよ凛華」
と、みんながいつか俺に化粧を教えてくれることが決まった辺りで昼休み終了5分前のチャイムが鳴ってしまった。
「あ、もう終わっちゃうじゃん。凛華がまだ話してないのに!」
「じゃあ1分くらいでウチが大事なことを伝えてあげよう」
「何かしら?」
「ズバリ、怜奈みたいなタイプの女子は確実に、そう、確実に女子から告られるね」
「あー!だねだね!カッコイイ系とか綺麗系の女子は告られやすいからねぇ〜」
「同感です」
「へえ、そうなの?」
「いやいや、冗談とかじゃなくてガチだよ怜奈。中学の時だけど、ウチの周りに怜奈みたいな美人の先輩にガチ惚れしてる子結構いたから」
「なるほど…。じゃあそういう心構えも持っておいた方がいいかもしれないわね」
「うん」
「本当に告られちゃったら困るな〜」みたいな空気を出しながらそう答えた俺だが、内心は全くの逆である。女の子から告られてみたいし、女子からモテる女子ってのはカッコよくて憧れる。
もし本当に告られた時はその時に対応を考えればいいだろう。そもそも、俺はこの女子校という舞台で「キャー!」と黄色い声援を浴びることができるような女子になりたいと思っているのだから。
だからこそ、凛華からこの話を聞けて安心したくらいだ。俺って女子にモテる要素をちゃんと持ってるんだな、と。
なら、俺は己の武器を理解してもっと磨いていくとしよう!
「ま、そんなとこだね。あと1ヶ月もすれば分かると思うけど、女子校は怖い所だから覚悟しといたほうがいいぞ〜。まあ、怜奈みたいなビジュ抜群キャラは基本的に被害を被ることはないと思うけどね」
「むしろ被害を与える側にならないかわたしは心配です」
「失礼な。私は清く正しく美しい人間を目指して生きているのよ?」
「だそうです凛華。採点してあげてください」
「うーん、75点!」
「お!やったね怜奈!凛華の75点は結構高得点だよ!」
「何の点数なの…?」
凛華に謎の採点をされたところで、俺たちは昼食を終えてそれぞれの机に戻った。
あとは5、6限を耐え、そうすれば放課後だ。
明日からは部活動見学も始まるし、今日は早く帰って早く寝たいな。
…にしても、やっぱり女子校は怖そうだ。勿論学校にもよると思うが、根本的な部分はそこまで学校ごとに変わらないだろう。
マウント。派閥。あとは虐めあたりだろうか?
色々と危険な香りがする。
しかし、そんな環境にいるからこそ「乗り越えてやろう」という気概が湧いてくるのだ。俺はこの容姿とキャラを武器にして女子校という特殊な環境を征服するのだ!
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