世界「報われない名将」選手権大会、出場決定

 今回四谷氏が参加された自主企画の三題噺は「宝」「話」「記念」がお題。前回の「雨」「口」「理由」はニッチ過ぎて予想が困難でしたが、今回は逆に広すぎて予想困難でした。もっとも私がこのお題で思い浮かぶのは、宝塚記念くらいですが。
 そして四谷氏が近況ノートで予告された題材は、隋の張須陀(ちょう すだ)。
 ……えーっと、どちら様でしょう?

 やむなくWiki先生に相談します。日本語記事中、彼の生涯を説明した文章の末尾は、「撃破した」が5回、「破った」1回、「敗走させた」「撃退した」「殺した」はそれぞれ1回ずつ。もちろん敵軍を、です。……ちょっと強すぎない?
 そもそも隋という時代自体が日本ではメジャーとは言い難いだけに、今回四谷氏の短編で取り上げられなければ、こんな傑出した才の持ち主がいたことに気付かないままだったでしょう。その意味でも、自主企画と四谷氏に感謝です。

 世界史には、しばしば「報われない名将」が登場します。その多くは「戦功を妬んだ王の側近に讒言されて処刑される(蒙恬、袁崇煥)、もしくは王その人に疎まれる(伍子胥、ベリサリウス)」「『狡兎死して走狗煮らる』を地で行って処刑(文種、韓信)」というパターンですが、本作の主人公・張須陀は少し異なるタイプの「報われなさ」と言えます。詳細は、是非本作をお読みください。

 しかし、当の本人は「報われるかどうか」で戦っていたのでしょうか?
 三つのお題のうちの「宝」。登場人物の名前にもこの字が使われてはいますが、主人公・張須陀が示した彼の信念、生き方こそが「宝」だったのではないでしょうか。
 ひとりの名将が、その部下たちに示した「宝」。胸を打つ読後感を、是非ご堪能ください。

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