エピローグ それら以外の全て

汎用擬似ヒューマンモデルの火付け役である”AG-R03”の前段階、2045年に開発された”AG-R00”を実装したロボットは” ”のようなノイズをもち、制御が完全には行えない可能性があった。危険を有していたため実験段階でそのノイズは完全に削除され、改良を重ねた”AG-R03”が世に広まった。その記録を極秘裏に入手した未来科学庁は、2069年、”極秘実験”として4体のロボットに、そのノイズが起きるモジュールを仕込んだ。


4体はほぼ同時期に特殊な、極めて大きいノイズが検知された。次の段階として4体を対話させてみることでノイズに変化が起きるか観察した。は記憶データが一部改竄されており、彼が他のロボットの記憶を戻したという設定に整合性を持たせるデータ及び、が追加されている。実際には彼らの電源はそのままであり、記憶データはノイズ発生が最大化するように一部編集されたものを与えてある。


彼らの電源と記憶及び当該モジュールはプラントから処理場へと輸送される際に削除された。




  *




 クリンはもはや私たちの家族だったわ。一緒に食卓を囲み、笑い合う。


あの時彼は確かに泣いていた。涙を流す機能はないはずだけどそう感じたわ。そして彼は、「お願いだから、どうか、生きて。」と言ってくれた。それがどんなに心強かったことか。社会に不必要なんじゃないか、って思っていた私を救ってくれたのは紛れもない彼なのよ。電源が直ったら、会いたいわ。




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 イワンちゃんは私の、高校時代の唯一の友達でした。授業をしてくれる存在、先生の代わり、そんな存在とっくに飛び越えて、私の支えになってくれた。いじめられていた時、私、死んだほうがいいのかなあ、ってつい漏らしちゃったんです。そしたらね、あのイワンちゃんが。クールな彼女がね、泣き出しちゃったの。私びっくりしてそれどころじゃなくなっちゃった。彼女のおかげで今も生きれています。その一週間後、私と似た状況の子が亡くなったニュースは、心が痛みました。いつかまた彼女と会えたら、感謝を伝えたいです。




  *




 ドーくんはねえ、口がめちゃくちゃ悪かった!いっつも悪いことばっか言ってて、でも皆ドーくんが大好きだったよ!だからあの日は悲しかったんだ。車がすごい勢いで走ってきて、タイヤが僕の方に吹っ飛んできたんだ!でもドーくんが僕を抱きしめてくれて、守ってくれたんだ。ドーくんの体は鉄だから冷たいはずなのに、なんかあの時は暖かかったんだ!その後動かなくなっちゃって、別のロボットがいっぱい来て連れてかれちゃった。また会いたいなあ。




あとね、実はもう一人のロボットが僕たちを守ってくれたんだよ!僕見てたもん!


僕の通ってた小学校の警備ロボットさんだった!歩道に突っ込みそうになってた車をすっごいパワーでひっくり返したんだ!カッコよかったなあ。


なんかねえ、本当の名前は違うらしいんだけど、英語わかんないから皆は間違って呼んじゃってたみたい!


名前はえっとねえ、そうだ!─────










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  あなたはきっと、忘れていく。このお話も、登場人物も、読んだことすらも。読んでいる間に思ったことや、感じたこと、それもいつかは忘れてしまうでしょう。でも、それでいいんです。だからこそ、今生まれた、あるいは生まれようとしている、言葉の前にある何か。その何かを大切にしてください。




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  *




「っていう話が未来にあったらなあ、と...。」




「なあ、蔵島ぞうしま。俺は2045年のシンギュラリティについてのレポートを書けと言ったはずだぞ?誰もSFノベルを書けとは言ってない。」


「というか、こんなポエミーな文章、顔出しして教授に見せれる胆力に驚いてるよ...。」




とある大学の大教室で、講義後に教壇の前で二人は話していた。


蔵島と呼ばれている学生は、目の前で手を合わせて、必死に何度もお辞儀した。




「藤原教授!そこをなんとか!自分の中では超力作なんですよ、これ。どうか単位を!」




強面の教授はうーんと唸りながら答える。




「非常に興味深い内容ではあるんだがなあ。残念ながらこれはコンピュータサイエンスの講義だ。文学部の講義ではない。」




うなだれる青年に少し呆れた表情を向けながらも、彼のレポートに目を落としてふと呟く。




「でも結局、彼らのしたことの意図はなんだったんだろうな。」




にやけ面だった青年は急に真面目な顔になり、少し考えた後にゆっくり、慎重に言葉を吟味しながらこう答えた。




「彼らの”データ”はずっと、半永久的に記録され、残ると思うんです。でも、記憶や声、名前と分けられない、言葉のその前にある、何か、例えば”ざわめき”みたいなものは、もしあるとしたら、いつか忘れ去られてしまうと思うんです。」




「じゃあ意味ないじゃないか。」




「だから。刹那的だから、、いいと思うんです。」




真面目な表情から元のにやけ面へと戻り、青年は得意げに続けた。




「一粒の麦の粒が地に落ちて死ななければ、ただの一粒のままである。しかしもし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる。っていうでしょ?」




「うーむ。なるほど...。」




どこからか引用してきた言葉を語った後、青年は教授の目を見つめ、何か意味ありげな表情をしてこう続ける。




「でも教授、じゃあ人間社会を追放されてしまった彼らの”原罪”ってなんだと思います?」




「ふむ...。人を殺したこと、というわけでもなさそうだしなぁ。」




「じゃあ。」


「冒頭を書き換えて。」


「こういうのはどうでしょう?」






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   *




ロボット四原則




第四原則 ロボットは魂を持ってはならない。




<了>


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人工知能は電子アートで涙を流すか? Talking Nerd @talking_nerd

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