人工知能は電子アートで涙を流すか?

Talking Nerd

人間殺し。誰が決めたか知らねえが、ロボット四原則とやらのうちの重大な違反。殺っちまったが最後、即スクラップだ。




「それで。」


「なんで俺のバッテリーはまだ生きてやがるんだ?」




壊すなら早く壊してくれよ、頼むから。




──プログラムは起動された。




  *




言葉が生まれる前って何があったんだろう。




感覚に、ざわめきに、まどろみに、




走り出したくなるような、抱きつきたくなるような、リラックスしたくなるような、殴りたくなるような、




お祭りの後、イルミネーションの街、遠足の前の日、怒られた後、褒めてもらえた後、初めてのデートの帰り道、




ああ、なんで言葉は数えられるほどしかないんだろう。




この世界は、なんて空っぽなんだろう。──




  *




  AM1:00、”彼”は今、ロボット廃棄場のスクラップの山の上にいた。


錆びた金属とカビっぽい匂いが充満し、彼は嗅覚センサーをすぐに遮断した。ゆっくりと起き上がると、天井から差し込む月明かりが彼の鋼鉄の体を青白く光らせた。




「うわあ!」




素っ頓狂な”声”がだだっ広い廃棄場に響いた。廃品泥棒か、と視線を向けるとどうも違うらしい。”それ”はこちらに向かってくる。




「まだ生きている方がいるとは驚きです!」




声の正体は彼と同じく廃棄されたであろうロボットだった。体長は80センチほどのフットボール型で、ぷかぷかと浮遊していて、目の位置にあるディスプレイが彼の上機嫌な表情を描いていた。




「”方”はやめろ。人間じゃあるまいしよ。」




「すぐにあの”方”をお呼びしないと!」




「だから方、って...。あの方?」




ご機嫌なロボットは左右についているロボット・アームをぐるぐると回して、山を降りていく。彼は多少のめんどくささを感じつつも、その後をついていくことにした。


  下へ行くとまた別のロボットがいた。今度はタブレット端末型で、先ほどのロボットが両手で持っていた。そして画面上部の小型プロジェクタからは人の姿が空中投影されていた。




 「初めまして。私は最新型ティーチングAIエージェントのイワンよ。」




無機質な女性の声はどこかプライドの高さを窺わせる。




「ご紹介遅れました!私家政婦ロボットのクリンと申します。」




”二人”の自己紹介を聞いた彼は自分も自己紹介を求められていると感じたが、そんなことお構いなしに話し出す。




「見たところ、故障して捨てられたわけじゃなさそうだな。飽きられちまったのか?人間サマによ。」




イワンは明らかにムッとした様子で切り返した。




「ひどい口の聞き方ね。教育訓練データがインプットされていないようね。差し詰め兵士か警備用かしら?」




彼女は無惨な形で捨てられた警備ロボットの残骸を一瞥した。




「だったら悪いかよ...。」




「ああ、お二人とも!おやめください!」




クリンは焦った様子で仲裁に入り、ディスプレイには渦を巻いた記号で目が描かれている。




「フン。まあいいぜ、どうせ俺らにもう価値なんてないんだからよ。」




そう言うと、イワンもクリンもさっきまでとは打って変わって、バツの悪そうな表情を浮かべて黙り込んでしまった。彼はふと横に目をやる。幾つかのスクラップの山があり、その大半は腕や足がもげたり、くしゃくしゃになったりしている。


自分は”消耗品”なのだ。そう再確認した。


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