第20話 女王雀蜂

 その後、殺戮蜂以外に雀蜂ホーネットと遭遇した。

 雀蜂は突出して高いステータスがあるわけじゃない。

 だけど、毒針による攻撃が厄介で状態異常によるスリップダメージでじわじわ削られる、本来なら。

 これに関しては、コンの『陽炎』で翻弄して、被弾してもエルナが『キュアヒール』で解除で対処できた。



「ここね」


 莉菜がボソッと呟く。


 今、オレたちの目の前に巨大な扉が聳え立っている。

 深い森が生い茂っている場所にこれは……ってなるけど、気にしたら負けだと思ってる。


「ここがエリアボスの女王雀蜂クイーンホーネットいるボス部屋か」


「……今日は時間も遅いし、ここで解散にしましょ。また明日」


 あ、ホントだ。もうこんな時間か。


 莉菜に言われて時間を確認したらもう夜の9時近かった。

 さすがにこの時間からエリアボス戦は無理あるよな。

 郁斗たちも時間を気にしてなかったみたいで、ちょっと苦笑いを浮かべていた。


 それから家に帰ったオレは、今日のドロップアイテムを全てショップで売却した。

 それで貯まったポイントでちょうどランダムスキルの書を一つだけ購入して、ブルーに使うことにした。


【ブルーにランダムスキルの書を使用しますか? はい いいえ】


「はい」を選択。


【ブルーは『サンダーアロー』を取得しました】



 翌日、ボス部屋まで一直線に向かって昼前には辿り着いた。


 中には、全長数メートルはあるであろう巨大蜂がブーーと羽音を響かせて、飛んでいる。


 女王雀蜂には、取り巻きとして殺戮蜂と雀蜂が5体ずついる。

 連携して攻撃を仕掛けてくる上に、時には女王雀蜂の盾になる。

 だから、最初に取り巻きを倒さないと女王雀蜂にまともな攻撃は通らない。


 郁斗とコンが先頭でボス部屋に入り、オレたちはその後を着いて行く。


「コン、『陽炎』『蜃気楼』!」


 ボス部屋に入ると同時にコンはいつも通り、『陽炎』を発動する。

 それに加えて、今回は『蜃気楼』も。

 スキルの効果はほとんど変わらないけど、二つ同時に発動することでより強力になる。

 それによって、『陽炎』だけだと効果を発揮しないエリアボスの女王雀蜂も幻に囚われている。


「エルナ、女王雀蜂を『ロックオン』『フレイムランス』!」


 エルナの放った『フレイムランス』は女王雀蜂に吸い込まれるように直撃した。


「これが昨日、新しく取得したスキル『ロックオン』の効果よ」


 すご!

 エリアボスに挑む前に莉菜から必中効果を付与できるとは聞いてたけど……


「私も負けてられませんね。カーラ、『ダークボール』『ダークランス』!」


「ブルー、『プロミネンス』!」


「アナスタシア、『ソニックスラスト』!」


 エルナの攻撃が女王雀蜂に当たったからブルーたちの攻撃も当たるなんてことはない。

 動きが速いからブルーとカーラの攻撃は普通に躱されてしまう。

 アナスタシアに関しては、地上付近に降りてきたタイミングで突きを繰り出したけど、すぐに高度を上げられて当たらない。


「ブルー、『ファイアボール』『フレイムアロー』『プチサンダー』『プロミネンス』『サンダーアロー』!」


「カーラ、『闇刺突』『連続突き』!」


 当たらないなら、数を増やせばいい。

 遠距離攻撃スキルが豊富にあるブルーだからこそできる。

 命中率はそこまで高くないけど、確実に取り巻きに当たっている。


 カーラはその逆で近接戦で確実に攻撃を当てている。

 その分、反撃を受ける可能性があるけど、多数を一度に相手取らないように堅実に立ち回っている。


 その後も堅実な立ち回りで攻撃を繰り返すことで取り巻き全てにカーラは攻撃を当てた。

 取り巻き全てにデバフ・状態異常を付与したことになる。


「カーラ、『ナイトメア』!」


 必中効果を持つカーラの『ナイトメア』によって取り巻きを全滅させることに成功した。


 その直後、


「コン、『狐火』『火輪跳』!」


「エルナ、『ロックオン』『フレイムランス』!」


 コンとエルナがエリアボスである女王雀蜂に同時攻撃。

 それを合図に総攻撃を仕掛ける。


 しかし、全然ダメージが入っていなかった。


 弱点の火属性の攻撃をあれだけ叩き込んだのに……

 これがEランクダンジョンのエリアボス。

 最奥にいるボスモンスターはたぶん、もっと硬い……


「ダメージは入ってる!このまま攻撃を続ければ、必ず倒せる!勝てない相手じゃない」


 いや、今は考えないようにしよう。

 目の前の女王雀蜂に集中!

 ……それにしてもさすが郁斗だな。

 重くなってた空気が一瞬に霧散した気がする。


 そんなオレたちを嘲笑うかのように女王雀蜂はとんでもない攻撃をしてきた。


 このボス部屋全体を対象とした風魔法による範囲攻撃。

 コンの陽炎と蜃気楼のコンボも無敵じゃない。

 姿や当たり判定を消してるわけじゃないからこういった範囲攻撃には効果を発揮しない。

 そこを的確につかれた。

 ボス部屋全体を覆う竜巻にブルーたちは全員巻き込まれた。


「ブルー、『プチヒール』」


 この中でブルーの魔法防御力が一番低い。

 だから、今の攻撃で最もダメージが入った。

 即座に『プチヒールで』回復できたからいいけど、これでクールタイムに入った。

 これが明けるまでエルナの『プチヒール』しか回復手段がない。

 より慎重に立ち回らないと。


「追撃に備えて!」


「っ!?」


 一瞬、ブルーたちの残りHPに目がいった。

 海夕の声で、女王雀蜂の方を見ると口元に風の玉のようなものが浮かんでいた。

 たぶん、風魔法の『ウインドボール』。

 それが今、最も女王雀蜂の近くにいたカーラへ目掛けて放たれる。


 さすがにこれ以上は。

 でも、どうしたら……


「オリヴィア、カーラをブルーのところに」


「……!!なるほど。カーラ、莉菜の言う通りに!」


「蓮、ブルーに『マジックシールド』」


 え、あ、えっと、よくわからないけど、莉菜の言う通りにしよう。


「ブルー、『マジックシールド』!」


「エルナ、『シャインランス』『シャインアロー』!」


 女王雀蜂が放った『ウインドボール』とエルナの『シャインランス』『シャインアロー』が衝突する。

 それでも完全に相殺することはできなかったけど、威力はかなり落ちた。

 そのお陰でブルーのマジックシールドでギリギリ防ぎきれた。


「ブルー、『プチサンダー』『プロミネンス』!」


 ブルーの放った『プチサンダー』と『プロミネンス』はあっさりと躱された。

 いや、外したが正しいかもしれない。


「コン、『二尾の焔』『焔爪』!」


「アナスタシア、『ソニックスラスト』『ライジングスラッシュ』!」


「エルナ、『ロックオン』『フレイムランス』!」


 ブルーとカーラの攻撃は全て女王雀蜂をボス部屋の壁際、向かって右側に動かすため。

 壁側に近づけば、壁を足場にしてコンとカーラが女王雀蜂の上を取って、攻撃を叩き込む。

 そこにエルナの必中効果を付与した『フレイムランス』が炸裂する。


「カーラ、『ダークボール』『ダークランス』!」


 コンとアナスタシアの攻撃で地に落ちてきたところにカーラの攻撃が決まる。

 それにより、女王雀蜂のデバフ・状態異常が更に悪化する。


 コンの『陽炎』と『蜃気楼』のコンボでいい感じに翻弄できてる。

 さっきのカーラみたいに近づきすぎると居場所がバレるけど、そこにさえ気をつければいける!


「やばいな、これ」


 郁斗が唐突にボソッと呟いた。

 この時、オレにはその意味が理解できなかった。

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Rewrite : Let's Monster Battle〜無限の可能性 進化と退化の軌跡〜 夕幕 @Yumaku00

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