第13話 投資された「未来」

 署長が崩れ落ちたことで、金賀一は、黒岩が金塊に託した最後の「投資」の意味を悟った。それは単なる金銭的なリターンではなく、この街の未来、そして金賀一自身の「人間性」への壮大な投資だったのだ。

 署長は、金賀一が提示した裏帳簿のコピーと金塊を前に、ついに観念した。彼の顔からは血の気が失せ、これまで纏っていた威厳は見る影もなかった。

「まさか…黒岩が、そこまで用意周到だったとは…」

 署長は、震える声でそう呟いた。彼の口から語られたのは、黒岩との出会い、そして彼が裏社会と手を染めるに至った経緯だった。署長は、自身の出世のために、黒岩が率いる組織からの裏金を受け取っていた。そして、その裏金をさらに別の汚職に「投資」することで、自らの地位を盤石なものにしていったのだ。黒岩は、その全てを知っていた。そして、自らの命を懸けて、その真実を金賀一に託したのだ。

 金賀一は、署長の告白を静かに聞いていた。彼の中には、金銭への執着とは異なる、新たな感情が芽生えていた。黒岩の最期の願い、そして彼がこの街に残そうとした希望。それらが、金賀一の心を深く揺さぶっていた。


 最後の「報酬」

 署長の不正が白日の下に晒され、警察組織内部の浄化が始まった。金賀一のリクルート活動によって集められた情報は、署長だけでなく、彼と繋がっていた裏社会の人間や、他の警察官の不正も次々と暴いていった。この街の闇は、金賀一の手によって、少しずつだが確実に光を浴び始めていた。

 そして、金賀一は、黒岩の遺書に書かれた「この金塊が、お前の最高の報酬となることを願う」という言葉の意味を改めて噛み締めていた。当初、彼はこの言葉を、純粋な金銭的報酬と捉えていた。しかし、今となっては違う。最高の報酬とは、金塊そのものの価値ではなく、この金塊がもたらした「街の浄化」であり、彼自身が「正義のために戦う探偵」として成長できたことだった。

 鮫島は、金賀一の隣で、清々しい表情をしていた。

「金賀一、あんたの執着心は、とんでもないものを動かしたな。俺は、警察官として、この街の闇に目を瞑っていたことを恥じるよ」

 金賀一は、静かに金塊を抱きしめた。その重みは、これまでの彼の探偵人生で得たどんな大金よりも、重く、そして尊いものに感じられた。


 新たな始まり

 金賀一は、この街の闇を完全に打ち破るために、新たな一歩を踏み出すことを決意した。彼の探偵事務所は、もはや単なる金儲けの場所ではなかった。それは、この街の平和を守り、困っている人々を助けるための、最後の砦となっていた。

 彼の金への執着心は消えたわけではない。しかし、それはもはや自己のためだけではなく、正義のため、そしてこの街の未来のために使われる「投資」へと変わっていた。黒岩が彼に託した金塊は、金賀一の人生を大きく変え、彼を「守銭奴探偵」から「街の守護者」へと成長させたのだ。

 金賀一は、この街が真の光を取り戻す日まで、戦い続けるだろう。黒岩の遺志を受け継ぎ、金塊が持つ真の「価値」を世に示すために。

 金賀一の、そしてこの街の「投資」は、これからどのような未来を生み出していくのだろうか?

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