第8話 署長の影、そして新たな事実

 金賀一は、黒岩の遺書に記された「この街の闇」という言葉を反芻していた。それは単なる裏社会の悪事ではなく、もっと根深い、街全体を蝕む巨悪を指しているように思えた。そして、その核心に迫るには、警察内部の協力者、あるいはその逆、警察組織に深く根差した存在が鍵となるだろうと直感した。

「鮫島さん、この遺書には、組織の人間関係や、金の流れについて、具体的な記述がない。黒岩は、そこまで詳しく書けなかったのか、それとも…意図的に隠したのか」

 金賀一は、遺書から目を離し、一点を見つめていた。その視線の先には、ぼんやりと署長の顔が浮かび上がっていた。

「黒岩が命を絶つ直前まで、誰とも連絡を取っていなかったのは不自然だ。本当に一人で計画を実行したのか?」

 鮫島は首を傾げた。

「あの黒岩が、最期まで誰にも頼らず、たった一人で金塊と遺書を用意したってのか?考えにくいな」

 その時、金賀一の脳裏に、以前、黒岩が口にしたある言葉が蘇った。「署長には気をつけろ。あの男は…」。その時は意味が分からなかったが、今となっては、それが黒岩の最後の警告だったのではないかと感じた。

「署長…」

 金賀一は、遺書に再び目を落とした。金塊に隠された「情報」とは、単に組織の秘密を指すだけでなく、警察内部の不正、特に署長が関与している可能性を暗示しているのかもしれない。黒岩は、自らの死を偽装することで、組織の目を欺き、金塊に隠された情報を世に公表しようとした。しかし、その計画が寸前で破綻したのは、単に病のためだけではなかったのではないか。


 署長の過去と、黒岩との接点

 金賀一は、すぐに署長の経歴を調べ始めた。彼の過去には、いくつかの不審な点があった。特に、現在の署長の地位に就くまでの出世が、異常なほど早かったことが気になった。また、署長が過去に担当した事件の中には、不自然な形で幕引きとなったものがいくつか存在した。

「署長は、黒岩がまだ組織の一員だった頃から、彼と接点があったのかもしれない。いや、むしろ、黒岩を組織に引き入れた張本人かもしれない」

 金賀一の推理は、とどまるところを知らなかった。黒岩が遺書で「組織の刺客ではない」と記したのは、彼を追い詰めたのが、組織とは別の、より大きな力を持つ存在だったからではないか。そして、その存在こそが、この街の「闇」の核心であり、署長がその中心にいる可能性があった。


 金塊の真の価値

 金賀一は、金塊を手に取り、その重みを改めて感じた。これは単なる財宝ではない。黒岩が命をけてまで隠そうとした、この街の闇を暴くための「鍵」なのだ。遺書に書かれた「この金塊が、お前の最高の報酬となることを願う」という言葉は、金賀一の金への執着心を利用し、彼をこの戦いの道へと引き込むための、黒岩なりの策略だったのかもしれない。

 金賀一は、黒岩の遺志を継ぎ、署長が関与するであろうこの街の巨悪を暴くことを決意した。彼の新たな使命は、単なる金儲けの探偵業を超え、この街の未来を左右する壮大な戦いへと変貌していた。

「署長…この金塊が、あんたを追い詰める最高の証拠となることを願うぜ」

 金賀一は、静かにそう呟くと、金塊を抱え、闇に包まれた街を見据えた。彼の探偵としての新たな戦いが、今、幕を開けようとしていた。

 金賀一は、この金塊に隠された真実を、どのようにして署長の不正と結びつけ、そして、この街の闇に光を灯すことができるだろうか?

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