第5話 金賀一、ヤミ金の匂いに鼻をクンクン!
「おい、金賀一!またお前、とんでもねぇ裏社会の匂いを嗅ぎつけてきやがったな!?」
新宿歌舞伎町の雑居ビルが立ち並ぶ裏通り。薄暗い路地裏で、金賀一は地面に落ちた、妙に分厚い封筒をルーペで調べていた。彼の隣には、いつもより険しい顔をした鮫島刑事が立っている。
「ひでぇな、鮫島さん。俺はね、世の中の不公平を正す、正義の味方ですよ。特に、そこに金が不当に絡んでいればね!」
金賀一は、いつものくたびれたトレンチコートのポケットから、もう一つのルーペを取り出し、封筒に書かれた住所を凝視した。今回の依頼は、歌舞伎町で起きた、ヤミ金業者の社長、黒岩竜二の殺害事件だ。黒岩は、自身の事務所で刺殺されており、金銭トラブルが原因と見られている。
「今回は、依頼主が…黒岩の家族でしてね。なんでも、黒岩は生前、莫大な裏金を隠し持っていたらしくて。その隠し場所を突き止めないと、家族に一銭も入ってこないってんで、俺様に白羽の矢が立ったわけですよ!」
鮫島は頭を抱えた。金賀一は今回も無償のふりをして、しっかりヤミ金の裏金、あるいはその関係者からの莫大な報酬を見込んでいるようだ。彼の金への執着心は、もはや犯罪の領域に片足を突っ込んでいるとしか思えない。
今回の事件は、黒岩の事務所が内側から施錠されており、いわゆる密室殺人だったこと。そして、容疑者全員が、その時間帯に完璧なアリバイを主張しているのだという。
完璧なアリバイ、そしてヤミ金の影
事件現場となった黒岩の事務所は、見るからに物々しい雰囲気が漂っていた。机の上には借用書らしき書類が散乱し、壁には血痕が生々しく残っている。金賀一はまず、事務所の窓とドアを丹念に調べた。
「なるほど。こんな狭い密室で、しかもヤミ金の社長が殺害されるとは…恨みを持つ人間は星の数ほどいるでしょうね」
容疑者は3人。
* 白石健太: 黒岩の右腕で、事務所のナンバー2。事件発生時刻には、遠く離れた福岡に出張しており、ホテルの宿泊記録と飛行機の搭乗記録、そして現地の協力者の証言がアリバイを証明している。
* 青野優子: 黒岩の元秘書。過去に黒岩からパワハラを受けて解雇されており、恨みを持っていたが、事件発生時刻には都内の病院で母親の付き添いをしていたと主張。病院の記録と担当医の証言がアリバイを裏付けている。
* 赤川悟: 黒岩に多額の借金があった男。事件発生時刻には、歌舞伎町の別の雀荘で徹夜で麻雀をしていたと主張。雀荘の従業員や他の客の証言、そして防犯カメラの映像がアリバイを証明している。これもまた完璧なアリバイに見えた。
金賀一は、それぞれのアリバイの証拠を丹念に調べ上げた。ホテルの予約システム、病院の患者情報、雀荘の監視カメラ。どれもが鉄壁で、隙がない。
「全員が完璧なアリバイだと?ふむ、これは面白い…」
金賀一は腕を組み、ニヤリと笑った。彼の脳裏には、すでに一筋の光が見え始めていた。
「鮫島さん、この事務所の天井、何か違和感を感じませんか?」
鮫島は首を傾げた。天井はごく普通のオフィス用のもので、特に変わった様子はない。
「そして、この殺害に使われた凶器…もし、それが事前に仕込まれていたとしたら…」
金賀一は、誰もが見落としがちな、このヤミ金事務所の「構造」そのものに目を向けた。完璧に見えるアリバイにも、必ず綻びは存在する。それが、金賀一がこれまで多くの難事件を解決してきた秘訣だった。そして、その先には、彼の大好きな「金」が待っているのだから。
アリバイ崩壊、そしてヤミ金が隠した真実
金賀一は、それぞれの容疑者のアリバイを再度確認するため、事務所の構造、ビルの配管図、そして周辺の監視カメラの死角を徹底的に調べた。
まず、白石健太のアリバイ。福岡にいたのは事実だ。しかし、金賀一は彼の「出張」が、ある特定の時刻に限り、ごく短時間で移動できる、巧妙な手口を使っていたことに気づいた。そして、福岡空港で、白石が短時間だけ利用したという、謎の貸しロッカーの存在にたどり着く。
次に、青野優子のアリバイ。病院にいたのは確かだ。しかし、金賀一は病院の「面会時間」と、彼女が持っていた「杖」に注目した。そして、彼女の杖の先端に、ごく微細な特殊な塗料が付着しているのを発見した。
最後に、赤川悟のアリバイ。雀荘にいたのは確かだ。しかし、金賀一は彼が徹夜で麻雀をしていたという「時間帯」と、彼の「手癖」に引っかかった。そして、雀卓の裏に、小さな穴が開いているのを発見した。
数日後、金賀一は鮫島と容疑者たちを事務所に集めた。
「皆さん、完璧なアリバイをお持ちだと主張されましたが、残念ながら、そのアリバイは、ヤミ金の融資のように、巧妙に偽装されたものでした」
金賀一はまず、白石健太に向かって言った。「白石さん、あなたは福岡にいましたね。しかし、あなたは福岡空港に偽装したプライベートジェットを待機させ、夜中に密かに東京に戻り、犯行後すぐに福岡へ引き返した。貸しロッカーには、その時に使用した変装道具が隠されていた」
健太の顔色が変わる。
次に、青野優子。「青野さん、あなたは病院にいましたね。しかし、あなたは母親の付き添いを装い、病院の非常階段から事務所の裏口へと移動した。そして、その杖を使って、密室のトリックを仕掛けたのです」
花子は冷や汗をかき始めた。
そして、最後に赤川悟。「赤川さん、あなたは雀荘にいましたね。しかし、あなたは雀卓の下に隠し持っていた小型ドローンを使い、事務所の窓の隙間から侵入させた。ドローンには小型のナイフが装着されており、それを操って黒岩を刺殺したのです」
金賀一は、白石健太が黒岩の裏金を独り占めしようとしていたこと、青野優子が過去の恨みを晴らそうとしていたこと、そして赤川悟が借金の帳消しを狙っていたことを指摘した。それぞれが、ヤミ金という闇の世界で渦巻く欲望に駆られ、巧妙な方法でアリバイを偽装していたのだ。
「真犯人は、あなた方全員です!」
金賀一は、三人全員を指差した。三人は顔色を真っ青にし、その場に崩れ落ちた。ヤミ金が隠した、それぞれの闇と、複雑な共謀犯だったのだ。
「まさか、こんな手口で…そして、全員がグルだったとは…」鮫島が驚愕する。
「ええ、巧妙な手口でしたね。ですが、守銭奴探偵のこの俺の目をごまかすことなどできやしませんよ。だって、この事件の解決で、黒岩の隠し金の一部が、俺様の報酬として転がり込んでくるんですからね!」
金賀一は、黒岩が隠し持っていたとされる裏金の隠し場所を突き止め、その一部を依頼主である家族に引き渡した。そして、その情報料として、莫大な報酬をせしめたのだ。彼の顔には、最高に幸せそうな、金にまみれた笑顔が浮かんでいた。
金賀一のアリバイを巡る事件は、こうして見事に解決した。さて、次の事件は、いくらの報酬が金賀一を待っているのだろうか?
💀犠牲者 黒岩竜二
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