守銭奴探偵・金賀一の事件簿
鷹山トシキ
第1話 金賀一、まさかの無償依頼!?
「おい、
薄暗い路地裏、金賀一は懐から取り出したルーペで地面の小石を検分していた。彼のトレードマークであるくたびれたトレンチコートは、今や土埃まみれだ。彼を呼び止めたのは、この辺りを管轄するベテラン刑事、鮫島だった。
「ひでぇな、鮫島さん。俺をなんだと思ってんだ。俺は真実を追求する、高潔な探偵ですよ」
「ケッ、お前が高潔?冗談も休み休み言え。で、今回はいくらふんだくるつもりだ?」
金賀一はニヤリと笑った。「今回は特別ですよ。なんせ、依頼主がとんでもねぇお嬢様でしてね。将来の大口顧客になる可能性を考えたら、ここはひとつ、サービスの精神を発揮しておこうかと」
鮫島は呆れたようにため息をついた。金賀一が珍しく無償で動いていると聞き、何か裏があるに違いないと警戒している。それもそのはず、金賀一は札束の山を前にしか本気を出さない、稀代の守銭奴探偵として悪名高いのだから。
今回の事件はこうだ。財閥の令嬢、白鳥麗華からの依頼で、彼女の婚約者である実業家、黒崎健吾が殺害された。容疑者は複数いるものの、誰もが完璧なアリバイを主張しているのだという。
「被害者は、自宅の書斎で頭を鈍器で殴られていた。発見されたのは昨夜10時。だが、奇妙なことに、部屋は内側から施錠されていたんだ」と鮫島が説明する。
金賀一はニヤリと笑った。「なるほど。密室殺人、そして容疑者全員の完璧なアリバイ…こいつは、金にはならねぇが、頭の体操にはもってこいだな」
完璧なアリバイ、そして綻び
事件現場は、黒崎健吾の豪華な邸宅だった。書斎は確かに内側から施錠されており、窓も厳重に閉まっていた。金賀一はまず、部屋の中を舐めるように見て回った。散乱した書類、倒れた椅子、そして壁に残された血痕。
「被害者はかなりの抵抗をしたようですね」
金賀一は独りごちた。
容疑者は3人。
* 白鳥麗華: 被害者の婚約者。事件発生時刻には、友人たちと市内の高級レストランで食事をしていたと主張。友人の証言とクレジットカードの履歴がアリバイを裏付けている。
* 青木剛: 被害者のビジネスパートナー。事件発生時刻には、遠く離れた温泉旅館に宿泊しており、旅館の従業員や他の宿泊客の証言、そして旅館の防犯カメラの映像がアリバイを証明している。
* 赤井秀一: 被害者の元使用人。恨みを持っており、最有力容疑者と思われたが、事件発生時刻には病気の母親の看病のため、自宅でずっと付きっきりだったと主張。近所の住人が母親の様子を見に来ており、その際に赤井がいたことを確認している。これもまた完璧なアリバイに見えた。
金賀一はそれぞれのアリバイの証拠を丹念に調べ上げた。レストランの防犯カメラ映像、旅館のチェックイン・チェックアウト記録、そして近所の住人の証言。どれもが鉄壁で、まるで隙がない。
「全員が完璧なアリバイだと?ふむ、これは面白い…」
金賀一は腕を組み、ニヤリと笑った。彼の脳裏には、すでに一筋の光が見え始めていた。
「鮫島さん、この書斎の窓、よく見てください。何か違和感を感じませんか?」
鮫島は首を傾げた。窓は確かに閉まっており、鍵もかかっている。
「そして、被害者が最後に飲んでいたというコーヒーカップ。これに何か、細工があったとすれば…」
金賀一は、誰もが見落としがちな細部に目を向けた。完璧に見えるアリバイにも、必ず綻びは存在する。それが、金賀一がこれまで多くの難事件を解決してきた秘訣だった。そして、その先には、彼の大 好きな「金」が待っているのだから。
アリバイ崩壊、そして真犯人
金賀一は、それぞれの容疑者のアリバイを再度確認するため、現場を離れた。
まず、白鳥麗華のアリバイ。レストランの防犯カメラには、事件発生時刻に彼女が食事をしている姿がはっきりと映っていた。しかし、金賀一はカメラの死角に注目した。そして、彼女が使っていたクレジットカードの明細。そこには、レストランでの支払いの他に、別の場所での小額の支払いが記録されていた。それは、小さなコンビニエンスストアでの支払いだった。
次に、青木剛のアリバイ。温泉旅館の防犯カメラには、青木が夜10時前に旅館に戻ってくる姿が映っていた。しかし、金賀一は映像の解像度の低さに注目した。そして、旅館のスタッフの証言。「青木様は、少々お疲れのようでした」という言葉に引っかかった。疲労は、長距離移動の証拠にもなるが、その逆もまた然りだ。
最後に、赤井秀一のアリバイ。近所の住人の証言は強固に見えた。しかし、金賀一は母親の病状と、赤井の自宅の構造図を手に入れた。そして、ある可能性にたどり着く。
数日後、金賀一は鮫島と容疑者たちを邸宅に集めた。
「皆さん、完璧なアリバイをお持ちだと主張されましたが、残念ながら、そのアリバイは脆い砂上の楼閣に過ぎません」
金賀一はまず、白鳥麗華に向かって言った。「白鳥様、あなたはレストランで食事をしていましたね。しかし、その後に立ち寄ったコンビニエンスストアは、この邸宅からすぐ近くでしたね。そして、その数分間、あなたは防犯カメラの死角に入っていた」
麗華の顔色が変わる。
次に、青木剛。「青木さん、あなたは確かに温泉旅館にいました。しかし、旅館の防犯カメラに映っていたのは、あなたに酷似した人物だった。そして、その人物は、あなたではなかった」
青木は冷や汗をかき始めた。
そして、最後に赤井秀一。「赤井さん、あなたは病気の母親の看病をしていたと。しかし、あなたは母親をある方法で一時的に『眠らせて』いた。そして、その間に、この密室のトリックを仕掛けたのです」
金賀一は、書斎の窓のトリックを暴いた。窓の鍵は、特殊な糸と粘着剤を使うことで、外から閉めた後に内側から閉まっているように見せかけることができたのだ。そして、被害者が飲んでいたコーヒーに睡眠薬が混入されており、犯行時に抵抗できないようにされていたことも。
「真犯人は、あなたです、青木剛!」
金賀一は、青木を指差した。青木は顔色を真っ青にし、その場に崩れ落ちた。彼は、旅館にいたのは自分そっくりの別人(事前に雇っていた役者)で、自分は密かにイスタンブールから東京へ移動し、犯行に及んでいたのだ。犯行後、再びすぐにイスタンブールへ戻り、アリバイを偽装した。なぜなら、イスタンブールの金融市場で得た莫大な利益を、黒崎に横取りされそうになっていたからだ。
「まさか、イスタンブールから…そんな短時間で…」鮫島が驚愕する。
「ええ、巧妙な手口でしたね。ですが、守銭奴探偵のこの俺の目をごまかすことなどできやしませんよ。だって、この事件の解決で、麗華お嬢様から巨額の報酬が転がり込んでくるんですからね!」
金賀一は、青木が持っていたイスタンブールでのビジネスに関する機密情報を白鳥麗華に渡し、莫大な情報料を手に入れた。そして、その顔には、最高に幸せそうな、金にまみれた笑顔が浮かんでいた。
金賀一のアリバイを巡る事件は、こうして見事に解決した。さて、次の事件は、いくらの報酬が金賀一を待っているのだろうか?
💀犠牲者1人 黒崎健吾
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