未明の焔(焔の恋改題)
凪紗夜
月の裏側の章
1 はじまり
「これでリンネは自由になれる」
その声は自分でもわかるくらい震えていた。
リンネはさきほどから、おれの背中に抱きついて、動かない。死んだようだった。いっそ死んでしまえばよかった。分厚いモッズコート越しに彼女の体は石みたいに感じられて、束の間、なんてものを背負わされたんだと思う。もう救いをもたらそうとする何者の手も届かないところへ二人で来てしまった。誰が悪いのかと言えば、リンネのわけがない。悪いのはおれだった。おれが自分ですべてやったことだった。おれは地獄へ落ちる。二人で来てしまったなんて言ったけど、どうかリンネは罰せられませんように。どうか。どうか。
悪いね、ばあちゃん。天国で再会しようって話だったのに。
「……ほら、リンネ。起きてくれ。火をつけるぞ」
「うん」
くぐもった声が聞こえて、リンネはおれの背から離れた。
おれは油を染みこませた可燃物に火をつけた。燃えていく。おれたちの罪が。
おれたちは黒い煙を吐きながらごうごうと唸りをあげはじめた炎を背に、踵を返す。
いま燃えているのは、見知らぬ誰かの小屋と――おれが殺したリンネの彼氏。
朝焼けと炎がおれたちを照らす。
おれはこれまでのことを振り返る。どこで運命を間違ったのだろうかと。
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