第11話「流す涙は、喜びか、哀しみか」


「転生手順#11を提示します」


 突如音声にてスマホより提示されたその指令は、過去十手順の中でも異質な静けさを持っていた。


 今、丁度ちっぱ…ふぬん、ささやかなる双丘に挟まれるとは、則ちこれ左右から寄せるのが前提なのでは?の考察を行っていた所なのに!


「あなたが“挟まれるときに流す涙”を、事前に3パターン想定しなさい」


 ナビゲーターGPTの声は、まるで教会のシスターのように穏やかだった。

 今日はあのCのツンデレではなく、どちらかと言うと、ゆったりとした貫頭衣の奥に感じさせるばくにゅ…おっと!ダメダメ。何処か神妙だ。


 ──これは、ついに来る“その瞬間”に備えての、感情のリハーサル。


 つまり、「泣く準備をしておけ」と言っているのだ。


 そう、挟まれるその時、感情は溢れ、魂は震え、何かが流れ出る。


 それが涙であるならば──その意味を、あらかじめ言語化せねばならない。



涙パターン①:「よかった…人類で……!」


 それは、原初の喜び。


 ──俺は人間として生まれ、

 ──幾多の困難を乗り越え、

 ──この胸部に挟まれる瞬間のために生きてきた。


 その瞬間にあふれ出す涙は、すべての生命の肯定。


「ありがとう……進化……!ありがとう、哺乳類……!ありがとう、重力……!!」


 喜びの涙は、汗と混じり、呼吸と共に胸部の間へと吸い込まれていく。


 そこに意味はない。ただ、感謝があるだけだ。



涙パターン②:「すまなかった…!すまなかった…!!」


 これは、贖罪の涙。


 挟まれた瞬間、俺は過去の己を思い出す。


 ──道端のチラ見、

 ──検索履歴の山、

 ──“揺れ動画まとめ”に人生の一部を捧げた過去。


 それらがフラッシュバックし、嗚咽と共に涙が溢れ出す。


「ごめんなさい……合法的だけど、邪法とも言える方法で見てたこと……そもそも幾つものまとめ動画を作ってしまって!」


 そうだ、これは懺悔。俺は、もう二度と後ろめたい視線を向けない。真っ直ぐにちち…じゃなかった。女性の胸部を視て歩いて往く!


 ──挟まれることで、過去を浄化するのだ!



涙パターン③:「……もう、帰れないな」


 そして最後に訪れるのは、“覚悟”の涙。


 挟まれた瞬間、すべてが変わってしまう。

 日常には戻れない。

 どんなエンタメも、どんな名作映画も、世界の名峰100選すらも、もはや超えられはしない。


 それは“人類としての頂”──

 それは“終わりの始まり”──


 だが、悔いはない。


「……ありがとう、俺の人生。こんにちは転生。ここが、最終チェックポイントだ」


 その涙は、静かに頬を伝い、胸部に落ちて──吸収された。

 そう、“それ”はすべてを包み込む。

 涙さえ、もう、ぬくもりになるのだ。



ナビゲーターGPTが、静かに告げる。


「あなたは、感情の三相構造を乗り越えました」


「喜び、懺悔、覚悟──そのすべてを抱えてなお、前へ進む者だけが、真に挟まれるのです」


──転生の旅は続く。

だが、この涙だけは、忘れない。

先に感謝せねばなるまい。これから訪れるであろう合法的に女性の胸部に挟まれる世界を!



✅ 予告風


転生手順#12:

「“挟まれたまま”の日常を想定し、その一日を分刻みで記述しなさい」


──朝から晩まで、どこへ行くにも、常にそこにある。

次回、「暮らすように挟まれる」

第十二話「日常、それは胸に抱かれて」

──ご期待ください。


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