最終話 Finale - 再会

「敵だ!」

 その晩騒がしい音がして、私と兄さんは入口へと向かった。

 巣の入り口にいたのは、拘束された勇者だった。

「離してやれ」

 首を押さえつける仲間の剣が緩められる。

 しかし支えを失った体が崩れ落ちてしまう。

 兄さんは駆け寄ると、勇者の身体を起こしてやった。

「ソーラは……ソーラはいるか」

 かすれた声だった。近くないと聞こえないぐらい。

「……いる。いるが……解放はできない」

 兄さんも別に憂いてはいない。ただ、自分たちの目的を果たしただけだ。

 でもその眼には、きっと見えない涙がにじんでた。私と同じで。

「そんな……どうにか……してくれよ……アイリーンも……仲間なんだよ……」

 絶え絶えとした息。途中で重くなったのか、請われた甲冑の破片も剥がしてきたみたいだ。

 口から吐き出された血が、白い麻の下着を赤黒く染めている。

「……無理だ……二人とも、我々の大事な母体だ」

 逃がすことはできない。この洞窟で子どもを産ませる。

 一人産んでも、もう一人……繁殖能力が亡くなるまで。

「ただ……合わせてやることはできる」

「人間を巣の中に入れるつもりですか」

「少しの間だ……許してくれないか」


 二人で体を支えて、二人の檻の前に勇者を運ぶ。

「アレク……」

 犯されたソーラは、魔法の服を脱がされたぐらいで外傷はない。

 ただ、顔は疲れているように見える。

 アイリーンはずーと気がそぞろなままだった。少し口を開けたまま、壁に背を預けて呆然としている。首が力なく垂れている。

「ソーラ……」

 檻の隙間からハグを交わす二人。

 兄さんは一度二人を離すと、檻の扉に手を掛ける。

「兄さん……」

 重い扉がギシリと音を立てて開く。

「兄貴……流石にそれは」

 周りで見ていた仲間が止めにかかる。

 勇者を中にれると、扉を閉めた。

 やっと再会できた二人は、籠の中で熱いハグを交わした。

「ソーラ……逃げようここから……それで、あの頃みたいに……二人で楽しくさ……旅しよう。大変なことも……あるかもだけど……」

 今自分たちが檻の中にいて、逃がしてもらえないことは忘れてしまったみたいに。

 朦朧とした意識の中で。

「アレク……」

 その弱弱しい背を抱きしめるソーラ。

「でも……あなた……きっともう助からない」

 残酷な真実を告げたのは他でもなくソーラだった。

 きっと彼女自身言う事を迷っただろうけど……騙すように別れるのは嫌だったんだろう。

 どうせ死ぬなら……ちゃんと最後のひと時だと思って、大事に過ごしたい。

「ねえ……アレク……何か最後にしてほしいことない? ……私、アレクにずっと……酷い態度取っちゃったから」

「そんな……ことないよ……悪いのは俺だ……」

 ソーラの頬を伝う涙を、血に汚れた指がぬぐう。

 力ない手だけど……ちゃんと勇者っぽい。

「なあ……なら……あのさ……こんなの言ったら……また失望されちゃうかもだけどさ……」

 最後の願いは結局──

「俺……ソーラと最後にセックスしたい……ちゃんと仲直り……出来たから」

 生き物らしくていいじゃないか。と私は思うけど。

 ソーラはどうだろう? でも──

「うん……いいよ……アレクがしたいなら……」

 涙を流しながら、アレクの身体を強く抱きしめるソーラ。受け入れて。

 それから、ソーラは自分の服を脱いだ。

 アレクの身体を寝かして、下を脱がす。

 生き物の最後の力か分からないけど──ちゃんとアレクのペニスは勃起していた。

 でも、もうアレクに動く力は残ってないから、ソーラがアレクのペニスを掴んで自分の股に入れる。それから上下に体を動かすけど──

「あれ……?」

 妙にすかすかとしている。

 見守る私たち。私は兄さんの顔を見る。

 ──多分、兄さんが犯してしまったせいで、膣のしまりが悪くなってるんだろう。

 人間の細いペニスじゃ、触れもしないくらいに。

「あれ……? 変だよお……ぜんぜん……アレクのおちんちん……感じないよぉ……」

 頑張って腰を振るソーラ。パチパチと頼りない音だけが、洞窟に響く。

「……」

 その様子を見る兄さん。

 兄さんはきっと……私と同じことを思ってる。

 ──もう見てられないって。

「貸してくれ」

 仲間の持っていた槍を取る。

 それを檻の隙間に入れて──。

 血液が散らばる。檻の中から流れ出て来て──鍾乳洞の白い床を濡らす。

 槍が引き抜かれたころ──狭い檻の中は赤ばかりだった。

 血液を被ったアイリーンだけは、どこを見るでもなく……壁に寄り掛かったまま。

 でも今、その目が揺れ動いて……チラリと檻の外をの私たちを見る。

 兄さんはもう一度、檻の中に槍を突っ込んだ。


                           第一章 完

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Lose Reason 堀と堀 @poli_cho_poli

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