第4話 Healer’s Melancholy - 宿場, 出発
歓迎される勇者の一行に加わって、酒場の席の端っこにぽつりと座る。
アイリーンは相変わらず、街人達の相手をしている。
アレクは私たちなんて気にせず、男たちと酒を酌み交わしている。
「おい兄ちゃん……この街の女は試したか?」
酒場の喧騒で上手く聞き取れないけど、何か話してる。
「ああ、あと……レイプ魔のことは知ってるか……この先の森にいるんだよ……メスのレイプ魔のあそこは最高でな……ぜひ足してみろよ」
「大丈夫?」
一人でやけ飲みして気分が悪かった。アイリーンが私の肩を支えてる。
「俺はもう少し飲むから、二人は帰っててくれ」
アレクは街の男たちと共に、次の店に向かったみたいだ。
◇
気分が悪いままベッドに寝かされて、その後のことは覚えてない。
気が付いたら音がする。
「……」
重い頭をもたげると、ソファーにアレクがいた。
隣の部屋のアイリーンもいる。
「……娼婦と寝たの? 香水のにおいがする」
アイリーンがアレクの身体に顔を寄せている。
それから変な手つきでアレクの身体を撫でる。
「……あ」
アレクは顔を上げて息を漏らす。
アイリーンが服を脱がしていく。まるで世話でもするみたいに。
「だめだよ……ソーラが寝てる……」
「大丈夫、相当酔っぱらってたし。あのお子ちゃまは寝きないでしょ」
お子ちゃま……私のこと。
「あはは……ソーラと違って、君の胸は確かに大人の胸だね」
アレクの手がアイリーンの胸に伸びている。
「ああん」
アイリーンがわざとらしい嬌声を上げる。
それから私は、くちゃくちゃ音が鳴る部屋で、重い頭のまま眠ったふりをしていた。
……彼女がアレクと寝ることに何の意味があるんだろう。
意味はある。勇者のパーティーの一人として、名声を手に入れられる。
ドロップと報酬のおこぼれを貰える。
だからって……私にはできない。好きでもない人と寝るなんて。
じゃあ、私はアレクのことが好きなの?
うん……好きだった。
村にいた頃の……まだ聖剣も手に入れていない、魔法も使えない彼のことが。
それから村を出て、最初は私も喜んでた。アレクがやっと力を手に入れて、生き生きとした顔で敵と戦うのを自分ごとのように喜んでいた。
大変なこともたくさんあったけど、それでも二人で支え合って来た。
それからアイリーンと出会って。たくさんの敵と戦って。
彼はいつしか『勇者』と呼ばれるようになった。
いたる街や、フィールドで会った後輩パーティーたちに尊敬のまなざしで見られ、先輩たちも彼を認めざるを得ず……敵は魔王だけ。
そうして自分を奢り始める。
◇
朝が来て、旅に出る準備をした。街を出る。
見送る人々の歓声も小さくなっていく。
「どの道を通る?」
地図を見ながら道を歩く。次の街へ向かう道。
「そのまま真っすぐでいいんじゃないか?」
「でも、真っすぐ行くと森の深いところに入っちゃうよ。危なくない?」
「遠回りするのも面倒だからいいだろ。それに──敵が出て来ても戦うのは、俺とアイリーンなんだからさ」
もう私のことなんて、怪我を直すだけのヒーラーとしか思ってない。
実際に戦うのは前線に立つ剣使、それから遠距離魔法で蹴散らす魔法使い。
「な、アイリーンもそう思うだろ」
「私はアイクが行きたい方で良いよ」
「じゃあ、真っすぐいこう」
──そして私たちは、あの恐ろしい化け物たちの住まう森へと向かうのだ。
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