第4話 Healer’s Melancholy - 宿場, 出発

 歓迎される勇者の一行に加わって、酒場の席の端っこにぽつりと座る。

 アイリーンは相変わらず、街人達の相手をしている。

 アレクは私たちなんて気にせず、男たちと酒を酌み交わしている。

「おい兄ちゃん……この街の女は試したか?」

 酒場の喧騒で上手く聞き取れないけど、何か話してる。

「ああ、あと……レイプ魔のことは知ってるか……この先の森にいるんだよ……メスのレイプ魔のあそこは最高でな……ぜひ足してみろよ」


「大丈夫?」

 一人でやけ飲みして気分が悪かった。アイリーンが私の肩を支えてる。

「俺はもう少し飲むから、二人は帰っててくれ」

 アレクは街の男たちと共に、次の店に向かったみたいだ。



 気分が悪いままベッドに寝かされて、その後のことは覚えてない。

 気が付いたら音がする。

「……」

 重い頭をもたげると、ソファーにアレクがいた。

 隣の部屋のアイリーンもいる。

「……娼婦と寝たの? 香水のにおいがする」

 アイリーンがアレクの身体に顔を寄せている。

 それから変な手つきでアレクの身体を撫でる。

「……あ」

 アレクは顔を上げて息を漏らす。

 アイリーンが服を脱がしていく。まるで世話でもするみたいに。

「だめだよ……ソーラが寝てる……」

「大丈夫、相当酔っぱらってたし。あのお子ちゃまは寝きないでしょ」

 お子ちゃま……私のこと。

「あはは……ソーラと違って、君の胸は確かに大人の胸だね」

 アレクの手がアイリーンの胸に伸びている。

「ああん」

 アイリーンがわざとらしい嬌声を上げる。

 それから私は、くちゃくちゃ音が鳴る部屋で、重い頭のまま眠ったふりをしていた。

 ……彼女がアレクと寝ることに何の意味があるんだろう。

 意味はある。勇者のパーティーの一人として、名声を手に入れられる。

 ドロップと報酬のおこぼれを貰える。

 だからって……私にはできない。好きでもない人と寝るなんて。

 じゃあ、私はアレクのことが好きなの?

 うん……好きだった。

 村にいた頃の……まだ聖剣も手に入れていない、魔法も使えない彼のことが。

 それから村を出て、最初は私も喜んでた。アレクがやっと力を手に入れて、生き生きとした顔で敵と戦うのを自分ごとのように喜んでいた。

 大変なこともたくさんあったけど、それでも二人で支え合って来た。

 それからアイリーンと出会って。たくさんの敵と戦って。

 彼はいつしか『勇者』と呼ばれるようになった。

 いたる街や、フィールドで会った後輩パーティーたちに尊敬のまなざしで見られ、先輩たちも彼を認めざるを得ず……敵は魔王だけ。

 そうして自分を奢り始める。



 朝が来て、旅に出る準備をした。街を出る。

 見送る人々の歓声も小さくなっていく。

「どの道を通る?」

 地図を見ながら道を歩く。次の街へ向かう道。

「そのまま真っすぐでいいんじゃないか?」

「でも、真っすぐ行くと森の深いところに入っちゃうよ。危なくない?」

「遠回りするのも面倒だからいいだろ。それに──敵が出て来ても戦うのは、俺とアイリーンなんだからさ」

 もう私のことなんて、怪我を直すだけのヒーラーとしか思ってない。

 実際に戦うのは前線に立つ剣使、それから遠距離魔法で蹴散らす魔法使い。

「な、アイリーンもそう思うだろ」

「私はアイクが行きたい方で良いよ」

「じゃあ、真っすぐいこう」

 ──そして私たちは、あの恐ろしい化け物たちの住まう森へと向かうのだ。

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