【収蔵品番号:No.027《虚ろ口の肖像》】
◆送付元:中央記録課・第五補完施設
文書番号:CPF5-027-P
【搬出記録】
品名:油彩肖像画(包帯人物像)
搬出日:2025年7月19日(金)午前7時52分
搬出責任:記録課職員 Y-13
記録事項:
モチーフは全身を包帯で覆った人物の正面上半身像。
顔の形状は凹凸が抑えられており、目鼻の位置は確認できるものの不明瞭。
顔面中央にだけ、異様に大きく開いた“口”が存在。縦に広がり、顔の大半を占めている。
口腔内に歯・舌の描写は一切なく、ただ黒く深い空洞のみが描かれている。
見つめる角度や光の加減により、口の奥から風が吹くような錯覚を訴える者が複数確認されている。
作者・年代の情報は不明。
裏面に記述不明のメモ用紙が貼付されていた(別記参照)。
【添付メモ(キャンバス裏より発見)】
「死んでからも包帯の下から、彼の叫び声は響き続けた」「だから私は開けた。外へ、ではなく、内へと叫ばせたかった」
※筆跡は乱れ、掻きむしるような線が上書きされている。インクの色は褐変。
【非存在性ショップ 店主の日誌】2025年7月19日(金)午後4時38分
夕方、裏口にまたあの荷が届いていた。最近はもう驚かなくなってきた自分がいる。
中身は、一枚の古びた肖像画だった。だが、それは「誰かの姿」であると同時に、「何かの記録」のようでもあった。
包帯で覆われた顔。何もないはずの表情の中心に、ぽっかりと口だけがあった。異様なほど大きなその“口”は、まるで絵の中からこちらを飲み込もうとしているようだった。
目がなくても、見られている気がした。耳がなくても、叫びが響いてくるようだった。
裏には一片のメモがあり、どうやらこれを「開いた」者の手によるものらしい。封じるための行為が、逆に開放への鍵になってしまったのか。あるいは──。
これは、おそらく見る者を選ぶ。だが、ここに辿り着いた誰かのために、私は店頭に置いておこう。
どう扱うかは、いつも通り購入者の判断に任せる。
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