【収蔵品番号:No.045《使われなかった双子の寝台》】
◆送付元:中央記録課・北7封印庫
文書番号:CRK7-045-EN
【搬出記録】
品名:写真作品(銀塩プリント)/仮題「双子の寝台」
搬出日:2025年6月27日(金)午前9時13分
搬出責任:記録課職員A-31(署名読取不能)
記録事項:
双子用ベッドを左右から斜めに見下ろす構図で撮影された写真作品。
左側には整えられた寝具が丁寧に置かれており、使用感はないが人の存在を想起させる静けさがある。
右側にはベッドフレームのみが残されており、寝具やマットレスは完全に欠損。
備考:
・観察中に「左に寝ていた感覚がある」という主観的訴えが2件記録されている。
・原版ネガには、右側のベッドのフレームは写っていない。
・上記備考について、ネガを見た職員が退職し、ネガそのものは紛失したため真偽は不明(2008年5月26日)。
※写真裏面に記号「II-0」が鉛筆で記載されている(意味不明)
【添付メモ(発見時、写真立て内部より回収)】
夜が明けるたびに、私は呼びかけた。隣の名を、隣の夢を。
でも返事は二度となかった。私はずっと、片方の朝に取り残されたままだ。
【非存在性ショップ 店主の日誌】
2025年6月27日(金)午後5時11分
まさかとは思っていたが、今週も昼前に裏口に箱が置いてあった。
箱はやけに軽かった。中には報告書のような紙と、小さな額に収められた写真が一枚。左右に並ぶ双子用ベッドの光景。
左側の布団は、まるで誰かが来訪の直前に整えたかのように、完璧に整っていた。
だが、あまりに整いすぎていて、逆に落ち着かなかった。誰も寝ていないのに、“そこにいた”気配だけが残っている。
右側は、フレームだけが残されていた。マットレスもシーツも、何もない。
まるで、そこに「寝てはいけなかった」ことが証明されているようだった。
それでも、フレームの上に薄く人影のような像が浮かび上がって見える。
視線をそらしても、網膜に残るような残像だった。
額の裏には「II-0」の鉛筆文字。意味は不明。けれど、0という数字が妙に気になっている。
売り物にはなるだろう。けれど、寝室には置いてほしくない。
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