運送業者の香典
OP
父さんの社葬からしばらくたったある日。
喫茶グラントでは連日の香典ラッシュに追われていた。
店に客はいないというのに、こんなに忙しいのは父さんのせいだ。
そもそも香典なんて
こんな変な風習は昔の戦争と共に滅んでほしかった。
なんでよりによって
現実逃避でぶーたれていると、リンゴーンと店の勝手口側兼自宅のドアチャイムが鳴った。
「誰だよ、この忙しいときに。」
モニターで見ると見知った顔だった。
企業間運送業大手のデエトさんだ。
なにか大きい荷物を抱えていたので入り口の広い店側から入ってもらうことにした。
「いやあ、参った参った。」
「大きな荷物ですね。デエト社長自ら配送ですか?」
「そうだよ、こればかりは自分で渡したかったんだ。」
箱を空けると香典の束だった。
絶句していると、デエト社長も懐から香典を出してきた。
「これは俺から。
「うへえ。また管理が大変なものを。」
「ハッハッハ、諦めろ。
「どういうこと?」
「これは俺があいつから事業を引き継いだときから居た客の香典なんだよ。」
「事業?」
「そうさ、俺の事業はあいつから引き継いだものなんだ。」
「そうだったんだ……って、配送業もやってたの父さん。」
「正確にはその前身の商売だけどな。」
「前身。」
「ああ。良い機会だからあいつから引き継いだ事業の思い出話でもしようか。」
「じゃあ話し始める前に飲み物でも入れるよ。コーヒーとかでいい?」
「んじゃあ……いちごオレをパックでくれ。縞模様のやつな。それと牛乳パンとコッペパン。牛乳パンは四角いのでコッペパンは緑の袋、バターとジャムが塗ってあるやつな。」
「注文が限定的だね。思い出の品なの?」
「そうさ。俺が働いていた時の賄い飯がそれだったんだ。」
「ふーん。」
何事もなかったかの様に冷蔵庫を開けていちごオレと牛乳パン、それにコッペパンを取り出して皿に盛り付け、カウンターに並べる。
「いつもながら訳がわからない冷蔵庫だな。パンは冷蔵するものじゃないだろうに。」
「んー。飲み物が要冷蔵のものだったからね。仕方なく。」
「?意味わからねーが、まあいいか。」
コッペパンを半分ほど食べ口の中をいちごオレで流し込むと、思い出すように話し始めた。
「ありゃあ、食い詰める寸前に始めた登録制の飲食物宅配の仕事をやってるときだった……」
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