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 余計な気苦労をさせられつつ拠点までの道のりを歩いていると野犬の遠吠えが聞こえたんだ。

 そのときは岩場で野犬とは珍しいと思ったよ。

 連中は自分の体より小さい物であれば特に吠えないんで、俺達が狙われていると察することは容易だった。



 戦闘態勢に入りたいのだが、俺の手元にはサバイバルナイフ、しかも蛇を調理して切れ味が悪くなっているヤツしかない。

「どしたの?」と呑気に聞いてくる阿呆に野犬の襲撃だと伝えると「へえ。どうやって戦うの?」とまた呑気に聞いてきやがった。


「今、手元にナイフ一本しかないから自分の身を守るのも無理かもな。」

「んじゃあなたとかあれば大丈夫かな。」

「ボウガンとかもあれば欲しいところだ。」

「おっけー。」

 炭を吸い込んだ時とは逆の流れで鉈とボウガン、それに何十本という矢に何故か釘が打ち込まれた木製バット変な形した木が出てきた。

「……なんだそれは。」

「得物。」

 野犬相手に釘バット変な鈍器は効くと思えなかったが、自分の身は自分で守るのがこの世の常識。

 放っておいてやった。



 遠巻きにしてした犬が一斉に襲いかかってきた。

 岩場なんで足場は悪いがボウガンが狙いやすい。

 犬が避けようとしてデカい岩にぶつかったりしながら数を減らしていく。


 ボウガンの射程より内側に来たときは2,3匹に減っていた。

 この程度の数なら問題ないと、鉈を振り下ろして脳をかち割っていった。

 そこまでは簡単にいったんだ。



「クソッ、こいつらミュータントかっ!」

 そう。野犬共こいつらはミュータントだった。

 脳味噌を割った奴は死んだが、岩に激突した奴なんかはピンピンしてやがったんだ。


 再び襲ってきた犬共に応戦していく。

 そしてボウガンで目を射貫かれた程度じゃ死なないクソ共を半数は潰したときだったか。


「うわーっ!?」

 見えたのは尻餅をつくノロマにミュータントクソ犬が襲いかかるところだった。


 だがアイツは食われなかった。

 口に釘バット得物をぶっ刺したんだ。

 そんでバットそのまま押し込んで頭を突き破り絶命させ、返す刀で2匹目の脳天を叩き潰しやがった。

 あのヘラヘラした顔のままな。



「ハアッ、ハアッ、ハアッ。クソッ。」

 ミュータント犬っころの数は減ってきているが、やはり多勢に無勢。

 完全に囲まれ、劣勢どころか窮地と言って良いレベルに追い込まれていた。


「なあ、おっちゃん。」

「何だ!」

「銃とか得意?」

「人並みだな!」

「サブマシンガンは?」

「口径にもよるが……あれば最高だ。だが持ってないだろ!」

「んにゃ、今買った・・・。」


 ホイと9mm短機関銃を渡してきた。色々言いたかったがそんな暇もない。とにかく撃ちまくったよ。


「ハァ……ハァ……全滅……したかな……。」

「さーなァ。弾が麻酔弾とかじゃなきゃ死んでるはずだ。」

「フゥーッ。さすがはプライム会員。追加料金を支払う価値がある。」

「……説明はしてくれんのだよな。」

「うん。秘密☆」


 機関銃を肩に掛け、ミュータントの死骸を鉈で漁る。


「何やってんの?」

「見りゃわかるだろ。ミュータントコアの回収だよ。」

「コア?それ取ったらどうなるのさ。」

「バッカ、燃料になるから売れるんだよ。」


「ふーん。」と興味なさそうに相づちを打ってくる。

 ミュータントコアを知らないなんてどんな世間知らずかと思ったが、この時はまあ、瑣末事だったな。



 ミュータントコアの回収があらかた終わろうとしたした時だった。

「なぁなぁ、おっちゃん。」

「おっちゃんではない。ブールだ。」

「ブールのおっちゃん。」

「ハァ……なんだよ。」

「あれ何?」


 アイツが指さした方向を見ると森の方に大型の犬が見えた。

 あれは……


「……ハウンド系だが……でかいな。アレもミュータントの様だ。ここに散らばってる奴より上位だぞ。」



 まさかの上位種ご登場だった。しかも2匹。この野郎、疫病神かって思ったね。

 まだ遠くで様子を見ているようだったんで9mmより上の口径はないかを聞いた。


「んー。残高ごっそり減っても良いなら中古のカノン砲かな。持てないと思うけど?」


 なんの残高かは知らないが強化骨格に改造してる俺の体なら余裕で持ち上げられると言ったら20mm機関砲を出してきやがった。

 これはカノンじゃねえ、オートカノンだ。


「まあ、たしかにコイツならいけると思うぜ。」

「それじゃ、まかせた。」


 ボイドの奴、減らず口を叩くが心配なのか眉が下がっている。

 機関砲とリンクさせる端子が付いてないんで精度はちっと心配だったが、相手は動いていないんだ。

 しっかりと照準を合わせれば当てられる自信があった。



 たいぶ古くさい機関砲とはいえ兵器として作られただけあって整備は行き届いており、照準に狂いはなかった。

 反動を計算できなくて初弾がズレたものの、次弾以降は全弾命中させた。

「はぁー、すっげえ。」

「あのな、傭兵やってるんだからこれくらいは出来て当然だ。」

「そっかー。ブールのおっちゃん傭兵だったのか。」


 脳天気さに頭痛がしてくるが、とりあえずの脅威は去ったってところだ。

 脅威が無くなったことを確認してから機関砲を返却し、上位種のコアも回収して再び帰路に向かった。

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