僕とポルノグラフィティ
この年代でポルノグラフィティが好きという話をすると、10歳以上年上の大人からは結構驚かれる。そこまで古いバンドでもないし、今も新曲にCMタイアップがあるくらい現役バリバリで活動中なので「おん???」とはなるが、冷静になるとデビュー年が1999年だ。まだ携帯が折りたたみですらない時代。
僕の人生とほぼ同じくらいの時間を最前線で活躍していると考えると、ほとんど僕の実家だと言ってもいい。うちの家が2000年に建ったので、築年数で考えると実家より実家だ。
ポルノグラフィティの魅力を語ると長くなるが、端的に言えば「多様なメロディ」と「頭に残る歌詞」だ。デジタルロックやラテン音楽、バラードやEDMといった多様な音楽性に、視点が近くも遠くもなる歌詞が乗り、ボーカルの特徴的な歌声がそれをポルノらしさにまとめる。シャッフル再生すると困惑するほどの広い振り幅がアーティストとしての魅力だ。
ちなみに、一番好きな曲は『MICROWAVE』です。声そのものが楽器みたいなリズム重視のEDM、ポルノっぽくなさすぎる!!
最初に聞いたのは『アゲハ蝶』だったと思う。当時3歳、家にあったテレビに繋げるタイプの簡易カラオケから流れていた曲だ。家族は誰も歌っていなかったので、カラオケ特有の打ち込み音源から流れるメロディを漠然と聞いていた。父親はどっちかというと『らいおんハート』を歌っていた。あまり上手くはなかった。
その後にポルノの曲を認識したのは『ハネウマライダー』だ。当時8歳、ポカリスエットのCMで流れていた曲が夏のイメージにぴったりで、歌詞の意味もわからずに口ずさんでいた。後から知ったのだが、この頃は僕よりも母親の方がハマっていて、当時出たベストアルバムをよく聞いていたらしい。赤と青のやつ。
そこから2010年代の『今宵、月が見えずとも』や『瞳の奥をのぞかせて』、『EXIT』あたりは母親の影響でよく聞いていた。当時はレンタル最盛期。TSUTAYAで借りてきたシングルをMDに入れ,家から隣の市のリハビリ施設に行くまでの車内で延々と流れ続けていた記憶がある。母親はライトファンだったので、僕はずっとポルノのシングル曲だけを飛び飛びで聴いていた。
そうこうしている内に僕は思春期に突入し、ポルノグラフィティはデビュー15周年を迎えた。
16歳の秋。ポルノが地元の球場でスタジアムライブをすることを、新聞広告か何かで知った。母親の「一回行ってみる?」という提案にそこまで乗り気ではなかった僕は、両親を含めた3人分のチケットが取れたのを聞いて流されるように着いていった。そこまで音楽に興味はなかったし、有名アーティストのライブに行くのも初めてだった。ポルノのことも「昔聞いてたバンドだしなぁ……」くらいの感覚で、一応15周年のシングル全曲入りベストアルバムは聞いて予習していたのを覚えている。
ポルノグラフィティのライブに行った事のない方に解説すると、彼らのライブは主に2種類に分けられる。
「ライブサーキット」と呼ばれるオリジナルアルバムやベストアルバムを引っ提げて行うツアーと、「ロマンスポルノ」と呼ばれる単発のスペシャルライブ。僕が初めて参戦したのは後者だ。今考えると攻めた名前してるな……。
ロマンスポルノはある種の祭に近い。有名曲をセトリに入れがちなため初心者でも楽しめるが、同時にファン垂涎のレア曲を披露しがちな場でもある。セトリ予想と予習がしづらいのだ。
「ハネウマ」も「今宵」も「アゲハ蝶」も、全部聴けた。というか、有名曲はほとんど披露された。その上で、セトリの半分が知らない曲だった。シングルを全部聞いた上でこんなに知らない曲あるの!?
知っている曲もライブで聴くと別の魅力があったし、周りを見るとコール&レスポンスや腕の振り方が怖いほどに揃っていた。ポルノファンは何故か異常に振りが揃いやすい。誰かが指示しているわけでもないのに、新曲でさえ曲の途中に腕が揃う。
会場全体が巨大な渦のようで、そこに飲み込まれていく心地よさは初めての体験だった。思春期逆張りマンだった当時の僕が、気付けば周りと同じように腕を振っていた。すぐに順応する僕に、隣で見ていた母親が一番引いていた。
原曲になかったホーン隊の華やかな音色。ライブ中に始まるファイアーダンスの演出。三塁側のスタジアム席でも、ステージの熱は届く。野外ライブの心地良い風と共に聞こえる歌声はリリース当初よりも深みを増していて、ポルノが「昔のバンドではない」ことを証明していると思えた。耳で聞くより何十倍も心に残って、夏の終わりの涼しさの中で僕はめちゃくちゃ汗をかいていた。
もっとこのバンドのことを知りたいと思った。今までの足跡を後追いするように、ポルノのアルバムやライブDVDを出た順番に聞いていくのが日課になっていった。
それから約10年が経つ。好きなアーティストは増えたが、僕が強い熱を持って語れるバンドはポルノだけだ。
ポルノのライブには5年に一回ほど参戦し、前からファンだった母親よりもほとんど詳しくない父親と一緒に行くことがほとんどだった。
半年前、人生3度目のライブに行った。元々チケットを取っていた25周年の公演が豪雨で中止となり、その数ヶ月後に行われた映画館でのディレイビューイングだ。商業施設のシネコンに徐々にライブグッズを着けている人が集まる絵面は壮観で、ちょっとシュールだった。
ライブは今回もロマンスポルノ。彼らの故郷で行われた、野外の凱旋ライブだ。セトリに並ぶレア曲は、振りまで自然に出るくらい頭に染み込んでいた。付き添いで来ていた父親が、ノリノリの僕に合わせて恥ずかしそうに腕を振っている。
それから数ヶ月間、帰宅した父親のワイヤレスイヤホンからポルノの曲が絶えず流れていた。口ずさむあまり上手くないメロディからわかるほどに、何度も。
気付けば、僕はもうとっくに渦に巻き込む側だった。
インターネットで座高を測る 狐 @fox_0829
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