針山追いかける

片桐秋

第1話

 針山が追いかけてくる。ハリネズミのような針山が。針山はハリネズミの背中と言うよりは、焼き魚を食べた後に残る、喉に刺さると痛いような骨に似ていると思える。


 ここは自宅の近くの緩やかな坂道のはずだ。はずだ、というのは、何故か今は街灯も消えて夜の闇の中だからである。


 僕は、手持ちの小さな懐中電灯で前を照らしながら走り続けていた。懐中電灯は100円ショップで買った安いやつだ。明かりは弱いが、でも無いよりはマシである。


 何故、街灯が消えたのかも分からない。辺りは真っ暗で、ほのかな月明かりは空遠くに、細く輝いている。


「満月だったらなあ」


 僕は思わず口にした。


「そうだ、満月だ」


 背後から声がした。振り返ると誰もいなかった。針山も消えていた。


 僕は、走り続けた。僕の足音だけが、闇の中に音を立てていた。


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針山追いかける 片桐秋 @KatagiriAki

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