第四章 第四話
初めて着る袴は意外と動きやすかった。華やかな色や柄も相まって、自然と足取りが軽くなる。
まさか自分まで着飾ることになるとは思ってもみなかったけれど、町に行って買い揃える時間を節約できた。
「
「それなんだけど……もう少し、この宿を探検してからでもいい?」
「え、でも……」
「ね、お願い。ちょっとだけだから!」
そして、庭の横を通ろうとしたときだった。
「わあ、素敵なお庭だなぁ」
「え、
「えっと、これは……」
どこからどう説明すればいいのだろうと躊躇っていると、
「あたしに付き合ってもらって、一緒におしゃれしたんです」
それから、
「
「うん、似合ってる」
「ありがとう。
褒められているのはあくまで着物ということにして、
すると、
「可愛いですよね?
「………うん……可愛い」
いつまでも注がれていた
「それ、アネモネの花じゃ……」
「あ、うん。そういう名前みたいだね」
「そっか。
「風習?」
「あたしたちの世界には、女の子が好きな相手に想いを伝える日があるの。その日は、この桃色の花を付けておいて、それを相手に渡すんだよ。本当はもう少し先なんだけど、
「そうだったんだ」
ようやくさっき
話を聞きながら、素敵な風習だなと思う。そういう特別な日があれば、普段は伝えられない気持ちを伝えやすくなるだろう。花を渡せば自然と気持ちが伝わるというのもいい。
初めて知る風習に感心していると、
「どうして、
「え?」
言われてみればそうだ。風習とその意味を知った今、髪に付いている花はただの飾りではなくなってしまった。
思い出すのは、
違うって言ったのに。そう言いたくなるのを呑み込んで、
「
「ふうん……」
適当な言い訳を並べてみるが、
微妙な空気が流れ始めたところで、それを断ち切るように
「あたし、これから好きな子を呼んでもらって、告白するつもりなんです。だから、これから町で“でぇと”しようと思って!」
「“でぇと”?」
そう聞き返したのは
「あ、“でぇと”は、恋人同士で一緒に出掛けることを言うんだよ。最近だと、友だち同士の場合でも使うみたいだけど……」
どうやら、人間の世界で言うところの逢引きや逢瀬のようなものらしい。意味はわかったけれど、出掛けるつもりだというのは初耳だ。
「二人っきりじゃ心細いんで、
「待って。わたしは担当だし、もちろんいいけど、
「いいよ」
被せるように
「本当ですか? やったぁ」
「でも、
「今日は担当客いないし、手も空いてるから大丈夫。一応、
「そっか。ありがとう」
正直、
「楽しみだね、
「そうなんだ。でも、わたしたちは仕事で一緒に行くだけだからね」
「はぁい、わかってるよ」
念を押しつつも、本当のことを言えば、
浮かれそうになっている自分に気づき、
仕事で行くだけ。浮かれないように自分に言い聞かせるため、
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