黒き聖女は屍を歩む 〜慈悲なき殺戮勇者、異世界にて断罪を執行す〜
アルるん
終わりの始まり
雨が降っていた。
いや、もうずっと降っていた気がする。
制服の袖は水を吸って重くなり、濡れた髪が頬に張りついて気持ち悪い。でも、そんなことはどうでもよかった。
「……やっぱり、誰も来なかったね」
放課後のホーム。傘もささずに立ち尽くす彼女の手には、一通の手紙。
『話を聞かせてください』と書かれたその文字の主は、現れなかった。
当然だ。
誰も、最初から自分を助ける気なんてない。
――担任は無視した。クラスメイトは笑っていた。
家では母がスマホの画面から目を離すことなく、「お前のせいで」と吐き捨てた。
どうして、私だけが、こんな目に。
何もしてないのに。
ただ、生きていただけなのに。
「……疲れたなぁ」
足元に視線を落とす。線路が、向こうまで続いている。
電車が来る時間まで、あと数分。
思考がどこまでも澱のように沈んでいく中、夜凪はふと、空を見上げた。
そこには――雷が走っていた。
瞬間、世界が弾けた。
身体が浮いた。
胸の奥に、何かが突き刺さったような痛み。
骨が砕け、心臓が止まった感覚。
けれど、それは一瞬で、やがて意識が闇へと引きずり込まれていく。
*
次に目を開けたとき、彼女は白い天井を見ていた。
いや、天井ではない。彫刻のような装飾が施された、どこか異国めいた大広間。
「……勇者様……! ご無事ですか……!」
見知らぬ言葉が、意味として頭に入ってくる。
顔を近づけてくる少女。光に満ちた表情。
背後には、王冠を戴いた老人と、並ぶ騎士たち。
「……ようこそ、この世界へ。我らが最後の希望、勇者よ」
夜凪はゆっくりと上半身を起こした。
身体に異変はない。ただ、何かが違う。
自分の中に――黒く、渦を巻く“力”のようなものを感じる。
「私は……柊、夜凪……」
掠れた声でそう名乗ったとき、全てが始まった。
世界の希望として、呼ばれた少女。
だが彼女は、すでに“優しさ”を捨てていた。
心を殺したまま、剣を手にする。
この世界に裁きを下すのは、
“かつて少女だった災厄”――最凶の殺戮勇者。
その名も――
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