夢願シール

yuka

1日目

夢願ゆめね村限定夢願シール★


本商品には願い事が書かれたシールがランダムで1枚封入しています。

シールはノーマルからウルトラレアまでの全××種類となります。

このシールを体に貼っていただくとシールに書かれた願い事が叶います。

本商品によるトラブルに関しては一切の責任を負いませんので自己判断でご購入、ご使用ください。





夢願村、今から200年以上前に設立されたこの村には古くから伝わる言い伝えがある。「夢は願いが強いほど叶う。」この言い伝えに従いこの村の住民はそれぞれの夢を叶えるために日々生活を送っている。余計なことに現を抜かないように娯楽施設やコンビニは一切ない。週に2度村の外から食料品や雑貨の移動販売が来るので必要なものは全てそこで購入をしている。そんな閉鎖的な村には住民も少なく学校は小中高とあるがすべての学年が1クラスのため毎年代わり映えのない顔ぶれがそろう。村唯一の高校、夢願高校に通う大橋司は日々憂鬱な生活を送っていた。


「はぁ~眠い」

目をこすりながら時間を確認すると今日の授業が終わるまで残り5分だった。


「ちょっと眠そうな顔するのやめてくれる。わたしまで眠くなるじゃん」

ブツブツ後ろの席から文句を言ってくるのが斎藤夢子。俺が住む夢願村の村長の一人娘。この村は人口も少ないため村民の皆が顔なじみではあるが、俺と夢子は子供の頃から一緒に遊んでいた仲だ。


夢願村、夢を叶えることを最重要視している思想が根強い村である。俺の今の夢は高校を卒業して都会に出ること。夢としては小さいものかもしれないが村のルールで高校を卒業するまでは村の外に出ることは控える必要がある。これも村長の言う夢を叶えるために余計なことに現を抜かないためだそうだ。村の外に出られないとはいえ外の様子はテレビや移動販売で購入できる雑誌を見ればわかる。今の時代にここまで閉鎖的な村なんて存在しないだろう。あまり村や村長の文句を言うと夢子が傷つくから言わないようにはしているが俺はこの村が嫌いだ。


そんなことを考えていると授業の終わりを知らせるチャイムがなる。放課後と言っても娯楽施設がないこの村では遊びに行ける場所なんてない。唯一あるとすれば移動販売の売れ残りや村の情報誌を販売している夢願屋くらいだろう。


「ねぇ司、今日の帰り夢願屋に行かない?」

「いいけど、お前の家なら必要なものは簡単に手に入るだろ」

「今日発売の新商品が出るらしいの。夢願シールって言うらしいけど」


はぁまた村の変な商品の販売か。思想の強い村だからなのか願いを叶えるために必要な道具と宣伝して色んな商品を販売している。今までだと鈴、鏡とかがあったな。で今回はシールか。


「でそのシールにはどんな効果が?どうせいつもみたいに願いを叶えるために必要な道具の一つだろ」


「良くわかってるじゃん。私も詳しいことは知らないけど、お父さんが言うにはそのシールにはノーマルからウルトラレアまでの願いが書かれたシールがランダムで1枚入っていてそのシールを体に貼るとシールに書かれている願いが実際に叶うみたい」

はぁ~夢子のことは嫌いではないがこういった馬鹿馬鹿しいことに付き合わされるのもこりごりだ。まぁそれもあと少しの辛抱だ。高校を卒業して都会に出る。それまであと少しこの遊びに付き合ってやるとするか。


「面白そうだな。是非見に行こう」

俺は夢子と一緒に夢願屋に向かった。


夢願屋は外で言うところのコンビニぐらいの広さがある。広いだけで商品の品ぞろえも悪く店員も80歳を過ぎた梅子ばあさんが1人いるだけだ。店に入るとすぐに新商品夢願シールとポップが貼られた棚を見つける。


「これが夢願シールか」

大して金のない村にしてはしっかりとしたパッケージに入れられているようだ。パッケージに書かれたシールのデザインを見ると、シールは村のロゴが書かれておりその下に願いが書かれているデザインをしているようだ。

「まぁこの村にしては上出来だろ」


「ねぇ司は何枚買う?」

ちっ、俺も買うのかよ。まぁ面白半分で1枚買ってみるか。夢子は既に10枚買ったところみたいだが俺はこんな遊びに付き合ってやっているだけ、どうせいつもみたいな詐欺商品だろうから1枚だけで十分。俺は1枚だけ手に取り梅子ばあさんのところで会計を済ませた。


会計を済ませて店からでると店の前でかったシールを確認する。


俺のシールには“テストで良い点を取れますように”と書かれていた。まぁそんなようなもんだろう。夢子のシールを確認すると俺と同じで小さな願いが書かれてあったが最後の1枚だけは他のシールと違い光沢のあるデザインをしていた。

「やった~これレアシールみたい」

喜ぶ夢子からシールを見せてもらうとそこには“同じクラスの〇〇が風邪を引いて学校きませんように”と書かれていた。

「なんだこれ、変な願い。自分に何もメリットねぇじゃん」


「司だって一度くらいは思ったことあるでしょ。嫌いな子が学校休んでくれとか」

それまで笑顔でいた夢子が真顔でそう言った。村長の娘とあってか村のしきたりや習わしに執着しすぎていて少し不気味なところがある。

「一度もないとは言わないけど、一時の感情みたいなものだろ」


「一時だろうがその時思ったことに変わりはないよ。思ったということは願ったと同じ。それが誰かを傷つけたりすることであっても自分の幸せのために願うの」

たかがシール1枚からこんなに重い雰囲気になるとは思ってもいなかった。

「ねぇ、試しにシール貼ってみようよ」

夢子からの提案に俺はため息をつく。

「本気で信じているのか?こんなシール貼っただけじゃ願いなんて叶わないだろ。こんなもので願いが叶ったらこの村で願いを叶えるために生活している村民のこれまでの努力の意味がなくなるだろ」

この村で生活している村民、特に俺たち高校生以下は厳しい生活を送っているが村民全員共有のルールが多くある。それは全て願いを叶えるため。それがこのシール1枚で叶ったらこれまで何十年も厳しい生活を送ってきたことの意味がなくなる。

「まぁでも願いが叶うことに越したことはないと思うよ。そうすれば村のルールだってだいぶ緩くなるだろうし。ねぇ、1回だけでいいから試してよ」


夢子の考えは理解できないところが多いが昔からの仲でもあるのですべてを否定することは出来ない。提案してきた夢子が試さないことは不服ではあるが俺は仕方なく“テストで良い点を取れますように”と書かれたシールを目立たなそうな太ももに貼った。


「ちょうど明日、司の苦手な数学の章テストがあるし、その結果が満点ならこのシールの効果はあるってことでいいよね?」

はぁ~これは夢子がこのシールに飽きるまで付き合わされるのか?

「まぁいいよ、それで。どうせ俺が満点取るなんてありえないし」

シールの効果なんてないと分かれば夢子もすぐに飽きるだろ。俺と夢子は軽く雑談し帰路に着いた。

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