嘘が嫌いだった僕
あかいとまと
嘘が嫌いだった僕
**「嘘が嫌いだった僕」**
僕は嘘が嫌いだった。
それは、子どもの頃からそうだったように思う。
嘘をつく人を見ると、なぜか胸の奥に違和感が生まれ、それが拭えないまま心の片隅に残った。
嘘というものは、時に人を傷つけ、時に人を遠ざける。
そして、その傷や距離は、一度できてしまったら、そう簡単には癒えないものだ。
だから、僕は嘘をつく人を許せなかった。
だからこそ、君が僕に嘘をついたとき、そして何度も約束を破ったとき、僕は許すことができなかった。
君と出会ったのは、もうずいぶん昔のことだ。
お互いに高校に入学したばかりで、まだ世の中の厳しさや人間関係の難しさを、それほど深く理解していなかった頃だった。
でも、その分、純粋だった。
君と過ごす時間は、僕にとってかけがえのないものだった。
君の言葉はいつも温かく、笑顔には嘘がなかったように思えた。
だからこそ、信じた。
でも、ある日から、君の言葉に微妙なズレが生じ始めた。
最初は些細なことだった。
例えば、約束の時間に遅れてくる理由が毎回違うとか、ちょっとした約束を忘れてしまうことが増えたとか。
そのときは、「疲れてるのかな」「忘れちゃったんだな」と、それほど気に留めなかった。
でも、それが繰り返されるうちに、違和感が拭えなくなっていった。
そして、ある出来事をきっかけに、君が嘘をついていることを知ってしまった。
そのとき、正直に話してくれれば、僕も理解できたかもしれない。
でも、君は黙っていた。
問いただしても、はぐらかした。
謝る気配すらなかった。
その態度に、僕は深く傷ついた。
それ以来、君の言葉は信用できなくなった。
君が何を言っても、それが真実かどうか疑ってしまうようになった。
そして、何度も約束を破られたことで、期待することすら怖くなった。
それでも、心のどこかでは、「君なら、ちゃんと説明してくれるはずだ」と思っていた。
だから、ずっと待っていた。
君が、なぜ嘘をついたのか、なぜ約束を守らなかったのか、その理由を話してくれるのを。
でも、君は一度も、その言葉を口にしなかった。
代わりに、手紙をくれた。
何度も、手紙で謝ってくれた。
言葉は丁寧で、心からの謝罪だった。
でも、それだけでよかったのか?
手紙で謝るのではなく、直接会って、目を見て、話をして欲しかった。
手紙は、確かに気持ちを伝える手段ではある。
でも、それだけでは、心の距離は縮まらない。
手紙を受け取ったとき、僕は「君は、まだ僕を大切に思ってくれているのかな?」と一瞬思った。
でも、その一方で「なぜ直接会いに来ないのか?」という疑問も拭えなかった。
君が謝ってくれたことは、心のどこかでは嬉しかった。
でも、それと同時に、君の行動が裏切っていた。
謝るなら、なぜ顔を合わせようとしないのか?
なぜ、直接僕の目を見て、言葉を交わそうとしないのか?
その答えがわからなかった。
そして、その答えがわからぬまま、僕は「君との仲はお終いだ」と思った。
それ以来、君とは会わず、連絡も取ろうとはしなかった。
それは、冷たい態度だったかもしれない。
でも、それしか、僕の心を守る方法がなかった。
嘘をつくことは、人を傷つける。
でも、嘘をついた後に、それを説明せず、ただ謝るだけでも、人を傷つける。
そして、その傷は、時間が経っても癒えることがない。
僕は、君を責めるためにこの文章を書いているわけではない。
ただ、この気持ちを、誰かに伝えたくて、そして自分自身に問いかけるために書いている。
もし、君がこの文章を読む機会があれば、
「あのとき、なぜ君は僕に嘘をついたのか?」
「なぜ、直接会って話をしてくれなかったのか?」
その答えを、今でも知りたいと思っている。
そして、もし今でも君が、僕のことを少しでも大切に思ってくれているのなら、今度は、手紙ではなく、直接会って話をしてくれないだろうか?
嘘が嫌いだった僕は、今もまだ、嘘を恐れている。
でも、真実を語る勇気があるなら、心の扉は、まだ閉ざされていないかもしれない⋯⋯。
嘘が嫌いだった僕 あかいとまと @akai-tomato
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