第11話 盗賊A 配下が自分よりも有能かも知れない



「キー、キー!」


クロノを調べようと思ったがその前に自分の事を確認しろと伝えてくる。





「‥確かに俺のレベルも、随分と上がったな」


クロノの確認をする前に、まずは自分自身の状況を確かめる。

今回のレベル上げで――正直、俺の成長速度は異常だった。



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名前 ロク

職業 盗賊

LV 25


スキル

・【ロブ】

・【時間回帰フィールド】

・【下位従属召喚】

・【勇賢者の石能力無効化】


称号 【古の超越者】



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【ロブ】

対象から所持品を“奪う”スキル。成功率は対象の強さ・レベル・耐性により変動。

最低成功率:1%。


【時間回帰フィールド】

発動すると、60秒前の指定した空間を“当時の状態”に巻き戻す。


【下位従属召喚】

自分の職業・種族の中で最下位ランクのモンスターを、テイム済み状態で召喚できる。


【勇賢者の石能力無効化】

勇賢者の石に付随するスキル・魔法効果を無効化する。


【古の超越者】

――すべてを超越し得る“器”を持つ者。



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「レベル3から25か……。まさかこんな早い段階で【スキルツリー】を意識することになるとはな」


目の前に浮かぶ光のパネルを見つめながら、思わず呟いた。

この世界に来る前――ゲームとして遊んでいた頃の記憶が、嫌でも蘇る。



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【スキルツリー】。

それは職業ごとに設定された“成長の地図”だ。

一定のスキルを育てることで、新たな枝が開放される。

盗賊なら──

「戦闘特化」「隠密特化」「金策特化」の三系統。


当時、掲示板ではこの振り方を巡って毎日のように炎上していた。

『スティール型は火力不足』『アサシン最強』『隠密が死にスキル』──そんな書き込みの嵐だった。


だが、俺は違った。

俺は“稼ぐ”ことに全てを注いでいたプレイヤーだ。

金があれば何でも解決できる。強さですら、金で買えた。

実際、上位ランカーだった頃の俺を支えていたのは――“資金力”だった。


「スキルツリーは、成長の地図みたいなもんだ」


独りごちる。

枝を間違えれば詰む。だが、正しく伸ばせば一財を築ける。

現実になった今も、その理屈は変わらない。


「……さて、どれを伸ばすか、だな」


目の前に三本の枝が浮かび上がる。


【戦闘特化】──力こそ正義。

【隠密特化】──影に生きる者。

【金策特化】──富と交渉の覇者。


ゲーム時代なら迷わず“金策”を選んでいた。

だが今は、死がある。負けたら終わりだ。

血の匂い、焼けた鉄の味――生きることの重みが違う。


それでも俺は、笑ってしまう。


「……変わらねぇな、俺は。結局、選ぶのは金だ」


指先が金貨のマークに触れた瞬間、

光のパネルが音もなく弾け、空間に金色のラインが走った。


【スキルツリーの進行方向を決定しました。金策特化構成へ移行します。】


後戻りはできない。



---


ゲーム時代、俺のメイン職は【商売人】だった。

そこから進化して最終的には【商聖】。

やることは今も同じ――「どれだけ稼げるか」だ。


「クロノの存在はデカいな……」


あのイレギュラーを仲間にできたのは、金策的にも大きな強みだ。

今までは“盗賊”という職の限界を感じていたが、クロノという個の強さが、武力が手に入ったのでれば可能性は広がる。



「俺は裏方‥‥いやこのまま【モブ】のままで良い」


俺という個人がアルタイルのような帝王や勇者のような存在になるという憧れは少なからずはある。

しかし、それがどれだけお金を稼げるんだ?

確かに王であるのであれば、魔王を討つ勇者であれば、逆に世界を滅亡させようとする魔王なのであれば普通の人よりもお金を稼ぐことも出来る。


だがそれは本当に【普通】なのであればだ。俺は主役さえも食い物にする【最強のモブ】を目指す。




だからこそ、スキル選びを誤るわけにはいかない。



---


金策系スキルの選択肢は三つ。


【1】レアドロップ上昇】

敵を倒した際、希少アイテムや金貨のドロップ率が上昇する。


【2】影倉庫】

自分の影に空間倉庫を形成し、素材・盗品を隠匿できる。


【3】盗賊の嗅覚】

一定範囲内の高価値アイテム・宝箱を感知できる。


他にも【交渉】【スリ】【ピッキング】【闇取引】など定番の枝はある。

だが問題は――この世界に“ドロップ”という概念があるかどうか、だ。


「フォレストウルフを倒しても……アイテムは出なかったよな」


倒したモンスターはそのまま。消えず、金貨も落とさない。

となれば【レアドロップ上昇】は“死にスキル”になりかねない。


「堅実にいくなら、【影倉庫】か」


確かに現実では、素材の運搬・保管は致命的な問題だ。

モンスターの皮一枚剥ぐにも時間がかかる。

影倉庫があれば効率は跳ね上がる。


……だが。


「もし、ドロップが“ある”としたら?」


この世界は完全な現実じゃない。

システムの名残はまだ残っている。

だったら、レアドロップも“可能性”として存在しているかもしれない。


「死にスキルか、大当たりか……」


賭けるなら、俺の生き方は決まっている。


「……ダメならダメで、その時考えよう」


俺は【レアドロップ上昇】を選択した。


光が弾け、胸の奥に熱が灯る。

スキルが、自分の中に刻まれる感覚。


「まずは試してみるか。クロノ、手伝ってくれ」


「キー!」


クロノが嬉しそうに羽を広げた。

金の香りがする風が、森の奥から吹いた気がした。






「あれ?結局クロノ調べてないぞ?」



「キーキー!」



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