短編小説 新兵と秘密の泉
@katakurayuuki
新兵と秘密の泉
「ほらよ、これで初心者だ。まぁ命を落とさないようがんばりな。」
そう新人募集の組合から渡された剣には何も書かれていなかった。最初は自分の名前を書き、自分の手になじませる。そして次々と問題や仕事をこなすうちに様々な名前が付けられるようになり、剣が成長していくのだ。自分の知識と共に剣も成長していく。そんな世界で俺は村から飛び出し、新兵として、この町から一歩一歩始めようと思う。
だが、人生そんなに甘くなかった。働けど働けど成長する機会はなく、主なミッションは当の昔にクリアした者がいるし、難しいミッションも既に強者がクリアしてしまいつくしている。そんな世界において、日々の雑事を済まし生きていくための仕事をしていくだけで毎日が終わってしまう。
こんなはずではない。しかし、他にどうしようもない。
焦りが渦巻く中仕事を終え酒を一杯ひっかけて帰るうちに道を迷ってしまったのである。
さすがに野宿は身体に応える。明日の仕事にも響くぞ。
そう思うが完全に迷子になってしまい、しょうがなくどこか泊まれるところはないかと迷っていたら、一軒だけ明かりがついているところがあった。
「すみません。道に迷いまして、今夜だけでもいいので泊まらせてもらえませんか?」
「いいですよ。しかし、ここは図書館なので何か本を借りるのならば泊めるのを許可しましょう」
ここいらに図書館があることなんて全く知らなかったが、ありがたいので一冊借りて、泊まらせてもらおう。
そう思い、適当な本を借りようとしたところ、ふと気になる質問があったのでダメもとで訊いてみた。
「司書さん、この町から少し離れたところにある『記憶の泉』ってのを知ってるかい?あそこには女神さまがいて願えば剣の名前を教えてくれるっていうんだよ。でも俺はその名前を知るためのミッションがなかなか受けることが出来なくてね。何かいい本は無いかい?」
「それならこの本はいかがでしょうか?すべての剣の名前が載っていますよ」
俺は驚いた。確かに剣の名前がずらりと並んでいたのだ。それは俺がどんな苦労を掛けても手に入れられないような名前や、はるか遠くにあるダンジョンの奥に隠された剣の名前までなんでもあったのだ。」
「こここ、こんなものが。これは借りていいのかい?」
「勿論です。図書館ですからね。ただし延滞したらお駄賃いただきますからね」
「ありがてぇ。1週刊分借りるよ。」
そういい、俺は本を読みつくし夜を過ごした。
次の日からは毎日の仕事があったが、それより記憶の泉だ。休みの連絡をしたらダッシュで泉まで走って行った。
その泉は神聖な雰囲気が漂っていた。
俺が近くまで寄ると、泉が光り輝き女神さまが出てきたのである。
「もし、剣の名前を知りたいのであるならば、その名を示せ」
俺は本をめくり、最強といわれる剣のページを開き、一番強いその名を叫んだ。
しばしの間、沈黙が続いた。 泉の神様の視線が何か気になる。どうやら俺が持つ本が気になるようだ。
「お主、その本はどこで手に入れた?」
「そらぁ街にある図書館さ。さぁ、世界で一番強い剣の名前をくれ!」
またしばらく沈黙した後、泉の女神は、
「だめだ。なぜならしかるべき手順をとらぬとその名をくれてやることはできぬ。その本はこの世界にあってはならぬものだ。ルール違反だな。しかし、それはお主の過失というわけでもないだろう。お主の頑張りはここからでも見ていた。だから代わりにお主には最初のゲームのスタートする時間の初めのほうから入られるようにもう一度采配してやろう。またレベル上げをするのは大変だろうが、今度は適度なミッションがあるから順当に行けばお主は正規の手段でここまで来ることが出来るだろうよ」
意味のわからない事を女神さまが言っている。だが何となく、最強の剣の名前はもらえないらしい。だが、チャンスはあるみたいだ。
そう考えていると光に包まれていくのだった。
「街に図書館か。そんなもの配置した覚えはないぞ。ここらで誰か悪さしているな?」
そういいつつ女神は泉に戻っていくのだった。
短編小説 新兵と秘密の泉 @katakurayuuki
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