第2話 追われる。不幸にする

「さ、何から始めるか…」

 寒々しい石造りの部屋。窓もなく、床に薄い布団が一組あるだけ。

 彩と零は向かい合って、ぽつんと座っていた。

「てか、零。あんたさ不幸にしてくれるんじゃないの?」

「手伝いするだけだ。俺は」

 無能じゃん…。

「ああ?!誰のおかげで出れたと思っていやがる!」

「ん〜?零。」

 すると、零は固まって―

「わ、わかってんじゃねぇかよ!!」

「…」

 いちいちうるせぇ神。

「はあ?!」

「あーあーもう知らなーい。で?手伝いするってどこまで?」

 考える零。

「人の命に手で出さなければなんでも。代償はデカくなるけどな。」

「…代償?別にいいよ」

 心は悲しさを混ぜた複雑な考えが頭を駆け回る。

「そうか、で?どうすればいい?」

「…社会的に殺すには何からすればいいの?」

 質問返しになっちゃうけど…わからなかった。

「アホなのか?」

「あんなに言われたくないわ!」

 思わず突っ込む。

「…17だっけか?歳」

「そう…未成年」


「まぁ、まず不幸にするなら…」

 ゴクリと喉を鳴らす。

「アイツらの個人情報を流す…が1番効率がいい」

「…何も知らないけど。アイツらのこと。」

「そんなんハッキングすりゃ一発だろ」

 一般人にはできねーよ。

 即答するな。

「1つ目の願い。ハッキングでいいか?」

「…いいよ。」

 ――ハッキング終了――

「で、これを流す…と。データを探り出すなんて…本の内容を紙に写すようなもんだ」

「…こんなんで不幸に出来るの?」

 疑問が浮かんだ。

「…そうだな…音声入れようぜ。こんなこともあろうかと…」

『この無能!』

 …え?お…お父様の声…。

 背筋が凍った。喉がひゅっと狭くなる。

 ――どうして。こんな、リアルに聞こえるの。

「これ、いつの…?」

「録音してた。ずっと…ずっと…聴いてた。」

 ………は?え、え?

「そ…それ…流さなくていいから。それ付けて…さっさと晒して」

 お父様の声が…頭の中で響き渡る。

 また…あんな扱いを受けるの…?

 帰りたくない…。零と…一緒にいたい…。

 零は…信用できる。なんでかは分からないけど…。

「はいはーい。わかってま〜す」



 ―ネットの声―

『え、うそ。あの大手企業の…?』

『娘さんイジメてんの?やばっ。信用問題にかかわる…』

『企業の対応次第では株価に影響出るな』

『警察は動くの?これ、被害届って出せるの?』

『全員で被害届ださん?』


 そんな声が相次いだ。


「…零、これからも頼んだよ。これから…徹底的に…社会的に殺すよ。」

「ああ、ご主人様。仰せのままに」

 …神様が何いってんだか。

「お前の過去…見てきたからな。」

「そりゃどーも。」

 ……こんなふうに、過去を知って、それでも傍にいてくれる人なんて――

 初めてだった。


 ピコン

 携帯の…通知がなった。

 連絡が来るのは…お義母様か…お父様か…お兄様…。

 それか…広告。

 恐る恐る…携帯を見る。

 手が震えてる。

 息がうまく吸えない…。

 カチ…

 電源を入れる。

『お父様から…15件の通知』

『お父様――わかってるのか―』

 メッセージの冒頭が、映し出される。

 喉が…焼けるように熱い。

 頭が…割れるように痛い。

 誰かっ…

 誰か…。

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