第1話 不幸を願った。出たのは神

 あなた達にわかってもらうなんて希望を持った私がバカだった。

 私なんかが意見を言えるはずがなかった。

 …ああ。

 死ぬのかな。

 お母様…。


『大丈夫。貴女には守り神がついてるわ。安心して生きなさい』



 目の前には鎖が巻かれた扉。

 こちらからは開けられない。

「……はぁ」

 抵抗なんてしたところで意味はない。

 …死ぬんだろうな。

 なんとなく、そう思ってしまった。

 死ぬならアイツらに抗いたい。

 だって…やられっぱなしは…嫌。

「あいつらが、不幸になりますように」

「承ったぞ」

 ………え?

 背後から低い声がする。

 私より上からだ。

「少しは驚けよ」

 振り返らずにいると、彼の雪のように白い髪が肩に触れ、綺麗な赤い目と目が合った。

 …天使の輪?がついてて白い羽も生えてる。

 …驚いたんだよ?これでも一応。

「誰?」

「ああ、俺はお前の守り神」

 …土地かなにかなの?私。

 あ、そっか。お母様が言ってた…。いるんだっけ。忘れてたわ。

 死ぬのかな?こんな時に見えるなんて。

「お前は生きるぞ?」

 …死なないの?

「行っただろ?守り神だ。守るためにいる」

「あ、そう。で?何してくれるの?」

 淡々と返す。

「お前…肝が据わってんなぁ…。ま、いいや。お望み通り、あいつら不幸にしてくるわ」

 ……これは…ありがとうでいいのか?

 というか、不幸ってどの程度の…。

「というか…なんで考えてること分かるの?」

「ん?お前の中にずっといるから」

 ……気持ち悪…。

「おい!…しゃーねぇだろっ」

「…で?不幸にするって何するの?」

 その守り神は…少し考えてから。

「仰せのままに。どうしますか?」

「…は?なんで?」

 決めといてよ…。

「いや、今呼ばれたんだぞ?!俺!17年ぶりに!」

 生まれたときから私の守り神なのかよ…。

「知らないよ…。どうやってでてくるのかなんて知らなかったし」

「はぁ?梨乃(りの)に言われなかったのかよ…」

 梨乃は私のお母様。

「守り神って言われてたけど…それあんただったの?」

「あ?!そうだよ!お前が何かを願うことで俺がでてくる!わかったか?!」

 …なんで叫んでんの?この人。

「おい!」

「まあ…ともかく。何も願うな。口に出すなってお義母様に言われてから…しょうがない」

 そう…アイツらことお義母様、お父様、お兄様は私をいじめ倒してきた。

 絶対に許さない。お母様まで殺して…っ!

 急にいなくなったお母様を地下室で見つけた時は…泣き叫びたくなった。

 頭から血を流し、横たわってる。目は魂を失っていた。

「…ま、そんなことより俺は彩(あや)の願いをかなえたい。どう不幸にする?火事か?それとも毒か?」

「…社会的に…殺そ?」

 私は柔らかく…不気味に笑う。

 すると、神は笑って。

「アリだな」


 まずは家から出ようということでとりあえず…

 力ずくで鎖を壊して外に出た。

 …神がやったんだけどさ。

「ね、あんた名前は?」

「お?俺は零(れい)。梨乃が付けてくれた。」

 …お母様を知ってるんだ。

「零ね、よろしく。さ、とりあえず…宿探そ。お金出せる?」

「無理だな」

 ええ…即答…?

「まぁ…いいや。金庫から取った金あるし。よかったね。アイツら金遣い荒くて。」

 ニヤ…っと笑って。

「…なぁ、彩。お前、本気か?復讐」

「本気に決まってるでしょ。母親殺されてんのよ」

 すると、零は黙った。

「零?」

「ま、いいか。俺はお前の願いをかなえるたびに〝大事な何か〟をもらう。代償としてだ」

 代償…。

「別にいいよ。失うものなんて…何もない」

 ――そう思えたら…どれだけ楽だろう…。

「そうか、ならよかった。じゃ、宿泊まりますか。あ、安心しろ?俺は他の人から見えてないから」

 聞こえなかったが、零はボソッと。

「何もない…か、簡単に言うぜ…」

 ……金払わせようと思ったのに。

「残念」

 煽るように零が言った。


「さ…何から始めるか」

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