プレゼント

すぅ

第1話


「ねぇ、例えば愛する人に、『身体に悪いから煙草やめなよ』と言われるのと、『吸いたいなら好きなだけ吸っていいよ』と言われるのだとどちらに愛を感じる?」

 小さな池のある公園の喫煙所で煙草を吸っていると、手持ち無沙汰にしていた恋人に質問された。

 彼女はたまに不思議な質問をしてくる。後者は一見相手を尊重しているかのように思うが、ただ相手に好かれたいだけのために言ってるようにも感じる。それに対して前者は相手の健康を思っての言葉だろう。それならば当然

「身体に悪いからやめな、の方かな」

 と僕は答える。

「へぇ、じゃあ愛する人にやめなよって言われたらやめる?」

「どうだろうね、言われてみないとわかんないかな」

 僕はもう一本吸おうとポケットから煙草の箱を取り出す。すると彼女はそれを奪い取り、ぐしゃりと握り潰してゴミ箱へと放った。

 一瞬の出来事に僕が目をぱちくりさせて彼女を見ると

「ねぇ、身体に悪いから煙草やめなよ」

 と言った。にっこりと笑っているがその目は確実に僕を射抜いている。

 僕は試されていた。彼女からの愛を、どう受け止めるのかと。そして彼女はわかっている。僕の愛する人が誰なのかを。

 僕は何も言わずに、ライターを彼女に差し出した。彼女は、今までのどのプレゼントよりうれしそうにそれを受け取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

プレゼント すぅ @Suu_44

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る