異世界底辺キャラに転生したけど、下剋上で無敵を目指そう!
秋月しの
アフタロ王国編 英雄の始発点は底辺なり
第1話 アフタロ王国の流れ者
俺は今日もいつも通りに、継ぎ接ぎだらけのボロマントを覆って街にさまよっている。住むところもないで、しょっちゅうお腹をすかしてる放浪生活は、いつまで続くだろう。
まだ五歳の子供だとはいえ、一応男だから力仕事でなきなしの稼ぎができる。何より俺は五歳の子供にして有り得ない知識がある。おかげで俺はこのアフタロ王国のスラム街、いわゆる死地と呼ばれる最底辺で細々と生きている。前世で積み上げた経験がなければ、俺はとっくに非人道的な虐待で死んだはずだ。そう、外見は五歳の男の子にもかかわらず、中身は十八歳の日本人、俺は、大学生活に事故で命を落とした転生者だ。
前世の記憶は持っているが、俺はこの世界に転生したいきさつをほとんど覚えていない。それから、いま五歳のイリアスという子供としてスラム街に住んでいるが、ここに来る前の記憶がない。両親のことも、自分の身元についてもなにもわからない。分かっているのは、ただ生き延びたいだけだ。
俺は死にたくない。秋山はるかという前世の俺はもう死んだが、それはもう取り返しのつかない悲劇だ。だからせめて、運よく得られた二回目の人生を満喫していきたい。この戦争と殺戮に満ちた過酷な世界で生き残すために、俺は強くならないといけない。その強くなる第一歩として、俺は毎日体づくりに勤しんでいる。力仕事で食事代を稼ぐのもそのためだ。
ただそれだけじゃ足りない。頑丈な体があっても、魔法には到底かなわない。ムキムキした脳筋バカなんか、火炎魔法一発で吹っ飛ばされてしまう。そして俺は思ったんだ。
「魔法を学ぼう」と
スラム街から大分離れた下町には、魔法の塾がある。この何か月間俺はほぼ毎日そこに行っている。ただ塾に通うのじゃなく、垣間越しに盗み聞きだ。そもそも俺は塾に払える学費があるわけない。泥まみれの俺は下町に行くたび、決まって他人に冷たい目で見られる。やつらはまるで致命的なウイルスを持っている蚊を見たように、俺を必死に避けようとする。
それでもましのほうだ。一日の重労働でようやく稼いだ小銭がでかい奴らに奪い取られるなんかもよくある話だ。そのせいでスラム街にいる俺はいつも、体中傷だらけであった。
自分の惨めな遭遇はともかく、この半年間塾の授業をタダ乗りすることで、俺はこの世界の魔法を多少認識することができた。
「魔導書」というのは魔法の呪文が記載してある古書。同時に魔法を習得する媒介としての役割もある。ゆえに魔法を使いこなせるために、その「魔導書」とやらを手に入れないといけない。俺にとってまず無理な話だ。それに一丁前の魔法を出すのに才能も必要だ。魔法の才能は生まれ持ちで、十人に一人や二人くらい持っているらしい。
そもそも転生者といえば、チート的な何かが神からもらえるのじゃないの?しかし俺にはなんに一つもないどころか、普通の家すら失った。俺に転生させたやつに会えばぶん殴りたいところだ。
そうして、俺は毎日の鍛えと塾の授業を怠らずに、一年を過ごした。ある日、塾から追い払われた俺はスラム街に帰ったら、見ない顔が目に入った。それは明らかに華麗なる衣装を着こなしている女の子だ。歳は俺と同じくらいで、きれいでサラサラな髪の毛が自然に垂れている。一見で分かるように、彼女はここの住人じゃない。なんといって俺と関係のない話だからとりあえず放っておいた。俺は毎日の鍛えと盗み聞きのルーティンを繰り返していればいいんだ。
ただ、何日心なしに観察したら、その子は来てから食事を全く取っていない。整った服もかなり汚れた。たった一人で路地裏の壁に座ってもたれている彼女は今すぐ倒れそうだ。そんな彼女をさすがに見ていられなくて、俺は仕事帰りに余分なパンを買った。
「これ、食べて」
俺は彼女にパンを一つ差し出した。
「……」
俺の話が聞こえなかったか、もしくは腹が減って声が出せないのか、彼女は返事をしなかった。
「こいつ、状態がかなりやばい」
仕方なく俺は彼女の頭を膝の上にのせた。彼女の虚ろな目を見て、俺はパンを小口にむしって彼女の口に入れた。それがちゃんとのどに入るよう彼女に残り少ない水も飲ませた。
しばらくして、彼女はやっと意識が戻ったようだ。
「あなたは、誰ですか?」
ひょろひょろとした声しか出なかった。
「お前のお隣さんだ」
「お隣さん…?」
「お前はどうしてここに居座るの?そんな格好しているなら帰れる家くらい…」
「ありません」
俺の話を最後まで聞かずに、彼女は可憐げなしかめた顔を上げた。
「いろいろ事情があるようだが、お前が話したくないなら無理しなくていい。それよりお前これからどうするつもり?」
「わかりません。あなたがくれた食事がなかったら私はもう死んだのでしょう」
憂鬱な顔をしている彼女はただ、頭を横に振るだけ。
「わからないって…ここは王国に一番治安の悪いところだぞ。お前このままだと…」
「私はもう生きる価値がないですから、どうでもいいです」
この歳でもう生きたくたいって?
「ふざけないでくれ。お前はまだ子供だ。生きる価値なんてお前のこの先の人生にはいくらでも見つかる。だからここで死んじゃだめだ!」
俺は何と言っても生きたい。前世最後まで生きられなかった悔しさを晴らしたい。とてつもない悔しさを胸に秘めているからこそ、俺はこの子の思いを知っている。
「お前だって生きたいだろう。ただやり方がわからなくて怖いだろう」
「私は…」
「死にたいというならせめて死ぬ価値を見つけだせ。じゃないと生きる価値を探すために生き延びろ」
「でも私にはそんな力が…」
「俺がいる!」
「え…?」
潤った目で俺を見上げた女の子を前にして、俺は強く彼女の肩をしがみついた。
「お前が生きる価値を見つけるまで、俺はお前を守ってやる」
真剣な顔をしている俺を見て、このか弱い少女がようやく涙をこらえなかった。俺の胸ですすり泣いている子猫のような女の子を絶対に守ると、俺は心の中で誓った。この子を前世の俺みたいに、遺憾を残したまま死んで欲しくないから。
「こうやってみると、年相応な女の子だね」
俺はつい声を漏らした。
そう、これからも彼女を守り抜く。こんな華やかな服を着ている女の子はスラム街の下種どもに目を付けられないわけがない。彼女が来てから毎晩、俺は一睡もせずに彼女の周りを見張っていた。やはり身しらずな悪党が何人現れたが、俺は奴らが彼女に手を出す前に仕留めた。
そう、俺は奴らを殺した。命が一番大事で、他人の命を奪いたくないが、ここは最底辺の世界だ。掠め取らないと掠め取られてしまう。自分の身に危険が及ぶ奴が出たら、迷いなく根絶やしてやる。残虐かもしれないが、これこそが最底辺の闇世界を生き抜く原則だ。力を磨き上げるのもそのためだ。誰かを自ら奪うのではなく、奪われないほどの能力が欲しいのだ。これからも俺とこの子を害するやつがいたら、俺はどんな汚い手も惜しまない。これは俺のやり方だから。
こうして、月の下で抱きしめあっている二人の子供は、これから一緒に新しい生活を送ることになった。泣きつかれたか、彼女は俺にもたれたまま寝ちゃった。俺は彼女を優しく横にして、隣から彼女の寝顔を見守っていた。
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