ダイエッ党の危険な政策
ちびまるフォイ
税金未納者向けの対策
「満腹警察だオラァ!!」
「わ!? な、なんですか!? ここ俺の家ですよ!?」
「知るか! 満腹指数の違法検知があった!
貴様、満腹になっているな!?」
「え? ええ……さっきご飯食べたので……」
「警部! こいつ違法食品溜め込んでます!」
「なんてやつだ!!」
家のあらゆるカップ麺は回収された。
しかし人情派の警部は手錠をそっと隠した。
「警備! いいんですか、逮捕しなくても!?」
「こいつは初犯だ。おおめに見てやろうや」
「あの……俺はなんの犯罪を……?」
「満腹禁止法だ。ニュース見てないのか?」
「しばらく実家でコールドスリープしていたので」
「なるほどな。じゃあダイエッ党のことも知らないのか」
「ダイエッ……なんですかそのバカみたいなネーミング」
「今、この国はダイエッ党が支配している。
満腹禁止法もその一環だ。次やらかしたら逮捕だからな」
「はい……」
あらゆる食品は回収され、ダイエッ党支給のおがくずフレークだけ渡された。
「これ食えってことかよ……」
かじってみたがなんの味もしない。
栄養価は高く、満腹感も保証されているらしい。
しばらく開けてなかった郵便ポストには、
ダイエッ党から配給された「国民歩数計」が入っていて、
1日の指定歩数未満の国民は警告されるらしい。
「ディストピアすぎる……」
味気の無いものをかじって、ひたすら歩かされる。
規定歩数になったときには外はもう真っ暗。
「歩数は達成したしタクシーで帰ろう……」
タクシーに乗ると座席は取り外されていた。
「あ、あの! 座る場所が……」
「ああ。ダイエッ党のせいさ。
電車もバスも、タクシーも座席は撤去されたよ」
「ずっとタクシーの車内で立ちっぱなしですか!?」
「そうしないと営業停止になるんでね。ガマンしてください」
「疲れてるのに……。せめて荷物はトランクにいれても?」
「すみません、トランクはちょっと……」
「なんでダメなんです?」
「前にのせたお客さんが貧血で倒れちゃって、
タクシーのトランクに入れてるんでね」
「怖すぎる!!」
結局、自宅までタクシーの中を立ちっぱなしで過ごした。
これなら歩いて帰っても同じじゃないのかと思った。
「はいつきましたよ、お客さん」
「到着する前に立ちくらみで倒れるかと思いました……」
「そのときはトランクに入れて運んであげます」
「いえそれは結構です……。しかし無茶苦茶だなダイエッ党……」
「ほんとですね。タクシーも商売上がったりです。
久しぶりですよお客さんをのせたのも」
「でしょうね。立ちっぱなしなら乗る理由無いですもん」
「そんなお客さんにちょっといい情報を上げます。
この住所に行ってみてください」
「なんですこれ?」
「それは言えません」
タクシーは走り去ってしまった。
数日後、住所の場所にいくと地下への長い階段がある。
階段を降りるほど光がなくなって暗くなっていく。
地下にあるドアには黒服のいかつい男が立っていた。
「なんだ?」
「あ、あの。この住所の場所にいけと言われて……」
「はいれ」
金庫のような重いドアを開けてもらう。
その先に待っていたのはネオン輝く闇市だった。
「す、すごい! ダイエッ党で禁止されている違法食品がこんなに!!」
そこはまさにカロリーパラダイス。
ダイエッ党により規制対象となった様々な食品が並んでいる。
「ラーメンが食べられるなんて最高!」
もう久しく食べていなかった大好物に舌鼓。
地上じゃ家畜の餌のようなものしか食べていなかったので身体に染みる。
「こんなにいい場所があったなんて!!」
すっかり闇市のとりこになってしまった。
それからはほぼ毎日、ひとめを盗んではこっそり食べに来る。
塩分過多。
カロリー過多。
ダイエットに真っ向から中指立てるような食品が、
みるみる自分の幸福度と体脂肪率を引き上げてゆく。
一度ここの食事を味わってしまうと、もう地上には戻れない。
あんなダイエット食品を食べ続けるなんてできない。
闇市に通い続けて数日。
ついに限界ギリギリだったお財布がからっけつになってしまった。
「うう……もうお金がない……。
でも闇市でしかご飯は食べられない……」
すでに中毒に近い状態だった。
地上でのダイエット食は口に運ぶだけで戻してしまう。
あのカロリー偏重の食事じゃないとダメだ。
「このままじゃ死んでしまう……。でも食べなくちゃ……」
お金もないのに闇市で食事をした。
店主の目を盗んで食い逃げしようとしたがやっぱりダメだった。
「おいこら!! 金も払ってねぇだろ!!」
「ひい! バレた!!」
「この食い逃げやろう! 闇市で食い逃げしたらどうなるか!」
「どうなるんです?」
「こっちへこい」
通されたのは闇市を仕切るギャングの親玉。
葉巻をくゆらせて貫禄たっぷり。
「ほう、お前。食い逃げしたと?」
「どうしても腹が減っていて……」
「この闇市じゃシャバで食えないものを非合法で提供している。
アウトローの場所でそんなスジ通らないことをしたら……」
「皿洗いでなんとかします! 仕事でお支払いします!」
「いや洗われるのはお前だ」
「へ?」
「あっちに人間内臓洗浄機がある。
お前の体は内臓をひっぺがして、洗浄機で洗う。
そのブヨブヨの体でも内臓ならまだ使い道はあるだろう」
「うそうそうそ!? 食い逃げでそこまで!?」
「悪いがここは治外法権でね。おい連れてけ」
「わーー! 待って! 助けてぇーー!!」
人間洗浄機の前に連れて行かれたとき、
闇市の入口付近で銃声と怒号が聞こえた。
「ボス! 大変です! 満腹警察が!!」
「ちっ。ここも嗅ぎつけられたか。逃げるぞ」
「あいつはどうします?」
「ほっとけ」
ギャング一味は裏口から逃げていった。
人間洗浄機前で拘束されていた自分は駆けつけた警察により解放された。
「……またおまえか」
「おまわりさん……助かりました……。
もう少しで開きにされるところでした」
「こんなところで何やっている?」
「ギャングにより美食漬けにされていたんです!
ここの食品は美味しすぎる! 一度味わったらもう逃げられない。
金と食欲をいいだけ絞られていたんです!」
「なるほどな。美食依存症になっているようだ」
「ああ、それです! きっとそれです!
やんごとなき病気なので僕は悪くないんです!
病気のせいで搾取されている哀れな被害者なんです!」
「むっちゃ喋るな……。まあ、お前もここで飲み食いした以上、
ダイエッ党の支配する更生施設に入ってもらう」
「はいもう喜んで!!」
開きにされるよりはずっといい。
やがて連れられた更生施設はほぼ監獄に近い見た目だった。
それでも闇市ですっからかんの自分にとって、
味気ない3食付寝床つきで屋根のある場所はもう天国だった。
「これからはこの更生施設で美食依存症を断ち切ってもらう」
「こんな場所を待っていたんです!!
やっとここで美食の奴隷から解放される!!」
「そんなテンションのやつは初めてだ」
「最低限度の暮らしができるなら贅沢はしませんよ! はっはっは!」
ギャングから解放された安心感で顔がほころぶ。
すると更生施設のスタッフがやってきた。
「〇〇さんでお間違えないですか?」
「ええそうです。何を隠そう私がその〇〇です」
「あなた、もしかして……体脂肪税をお支払いではない?」
「たいし……体脂肪税?」
「ダイエッ党のメイン税収なのにそれを支払ってないようです」
「そ、そんなの知らない……」
「あなたの体脂肪率は99%なので、1億円の税金を納める必要があります」
金額を聞いて言葉が出なかった。
とうてい払える金額ではない。
やっとギャングの取り立てから解放されたのに。
「お金がなくてギャングに追われていたんですよ!?
それなのに1億円の体脂肪税!?」
「税を納めるのが国民の義務です」
「そんなの払えるわけ無いでしょう!?」
「そうですか……。ではこちらへ」
更生施設の部屋から出されて別室へと移動させられる。
「ちょっと、どこへいくんです?」
「税収が納められない人向けの方法もあるんです」
「なぁんだ、ちゃんとそういう救済措置があるじゃないですか。
最初から教えて下さいよ。びっくりするなぁ」
別室の扉が開かれる。
そこには見覚えのあるものがおいてあった。
「こ、ここが体脂肪税未納者への部屋ですか……?」
「ええそうです。間違いないです」
「だ、だって……」
部屋にはキレイに整備された人間洗浄機が待っていた。
ダイエッ党の危険な政策 ちびまるフォイ @firestorage
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