第46話 エイへの違和感

 「古典って難しくない?」

 休み時間に、起きたカメが私のノートを写しながらそう言っていた。

 「いや、カメが寝てるのが悪いと思うよ?」

 私がそう返すと、カメが「そんな言わないでよ~」と言った。私は、ふとエイがどうしてあの時答えたのかを訊きたくなり、後ろを振り返った。

 「あれ?。エイは?」

 私が振り返ると、そこにはさっきまで私も使っていたのと同じ教科書だけが残された机しかなかった。

 「さっきまでいたんだけどな」

 「トイレじゃねーの?」

 ミヤとタカは、エイがいないことを不思議には思っていないようだった。ただ私にとっては、いつも寝ているはずのエイがいないのが不思議になっていた。

 エイは、次の授業が始まる一分ほど前に帰ってきて、何事もなかったように言語文化の教科書を机になおしてから次の教科書を出していた。

 私は、後ろから流れてくる匂いが気になった。いつものような、柔軟剤や制汗剤の匂いとは違った、独特な甘い匂い。さっきまでしていなかったはずの匂い。確実なのは、その匂いがエイから来ていることだった。

 私は、授業が始まってからも、そのエイの独特な甘い匂いが気になってしまい、授業に集中できなかった。エイに訊くこともできない私は、その匂いで酔いそうにもなった。

 「ねぇねぇ、なんかエイさ、めっちゃ甘い匂いしない?」

 カメが小声で訊いてきた。私も、訊かれたのが少し嬉しくなった。自分だけが思っているのかと思うほど周りが反応をしていなかったため、エイはおろか周りにも訊けなかったから。

 「なんか、甘い匂いっていうか、柔軟剤とかととがった匂いがするよね…」

 私がカメと同じぐらいの声量で答えると、カメは何かを考え出した。そして、数秒たってから、いつものような目とは違ったきりっとした目でこっちを向いた。

 「あれは、女ができたね」

 「ん?」

 私は、カメのいきなりの言葉に戸惑った。というよりも、理解が追い付かなかった。カメがこういうことを言うのはいつものことだが、エイのことに対してこういうことを言うのは初めてだった。

 私の戸惑いに気が付いたカメは、「つまり彼女ができたのかもね~」と言った。カメの顔は、いつものようにニヤニヤと笑っていた。恋愛に関する話は、カメにとって特ダネに違いない。

 「あれ、もしかして、ルミってエイのこと好きだったりする?」

 私は、余計理解ができなかった。私は、今までに恋というものを感じたことがない。好きな人も気になる人もできたことがないと思う。高校生にもなって、恋愛というものがよくわからない。 

 「そんな訳ないじゃん」

 「うわ~。ガチの否定顔じゃん」

 今の自分の顔を見ることができないが、多分カメの言っている通りの顔をしている。

 そんな会話をしていると、授業が終わった。

 「あっ、そう言えば、会長に用事があるから放課後行こ~」

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