神殿

 カイルたちが《古代封印の神殿》への依頼を受けたのは、王都から届いた依頼のうちのひとつだった。対象の神殿は廃墟と化しているが、周囲に不安定な魔力が観測されるとのことで、ギルドとしても調査を急ぐべきと判断されたのだ。


 ルナは少しだけ不安げな顔をしていた。


「王都の依頼ってことは、あの“特務機関”も動いてるかもしれないわよ」


「灰の狩人、か……」


 ユリスが名前を口にしたとき、部屋の空気がわずかに張り詰めた。


 彼らは王家直属の戦闘組織。対象を“危険”とみなせば、殺しすら辞さない実力主義の集団。"ある"研究に深く関わっているという噂もある。


「でも……行くしかないと思う。俺のスキルのこと、もっと知らなきゃいけない」


 カイルの言葉に、ルナは少しだけ目を伏せてからうなずいた。


 翌日早朝、三人は神殿へ向けて町を出発した。目的地までは徒歩で二日ほどの距離にある、無人の山地にひっそりと残された遺跡だった。


 最初の夜、三人は野営地で焚き火を囲んでいた。薪がはぜる音が、静かな夜に響いていた。


「カイル。もし、本当に神を封じるようなスキルだったら……どうする?」


「……分からない。でも、何も知らないまま怯えて生きるよりは、自分の力をちゃんと見極めたい。誰かに利用される前に」


 ルナは火を見つめたまま頷いた。ユリスもまた、小さく微笑んでいた。


 神殿に到着したのは翌日の夕方だった。苔に覆われ、崩れた石柱が並ぶその場所は、まさに“かつて存在したもの”の残滓に過ぎなかった。


「ここ……間違いない。魔力の流れが、この下に続いてる」


 ユリスが地面に手を当て、確信を込めて言った。


 遺跡の中央には崩れた祭壇があり、その裏手に、かすかに開いた地下への通路があった。地図にも記載されていない、隠された階段だった。


 ルナが魔術で灯りをつけ、三人はその中へと足を踏み入れた。


 薄暗い地下通路は、外の冷気よりさらに冷たかった。壁には古代文字らしきものが刻まれているが、いずれも摩耗し、解読は難しい。


「気をつけて。魔物の気配がするわ」


 ルナの警告と同時に、地下の奥から低いうなり声が聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る