隠された血脈

 ギルドの医務室。


 柔らかな陽が差し込む部屋で、ユリスはようやく目を覚ました。


「……ここは?」


「安心して。君を助けたのは僕たちだ」


 俺は椅子に座って、彼女の顔をのぞき込む。


 しばらく無言だったユリスが、ぽつりとつぶやいた。


「……あなたの名前は?」


「カイル。カイル・セレン」


「カイル……。そう……やっぱり、似てる」


「何が?」


「……あなたの“気配”と、あの人の“力”が」


 ユリスは、そう言ってベッドから起き上がる。


「……私、少しずつ思い出してきた。私は、たぶん“王都の研究所”で生まれた……“人間じゃない”存在」


 俺とルナは息をのんだ。


「研究所……って、まさか“人工生命体”ってこと?」


「ううん、そうじゃない。正確には──“封印者の血を継ぐ者”」


 ⸻


 ユリスは語った。


 かつてこの世界には、「封印者」と呼ばれる特殊な血筋が存在していたという。


 彼らは“神代”と呼ばれる遥か昔──神々と魔王がまだ戦っていた時代に、強大な存在を“封じる”ことで世界を守っていた。


 だが、神々の戦いが終わった後、封印者たちは“恐れ”と“妬み”の対象となり、やがて王国の手によって血筋ごと処刑、または“実験対象”として扱われた。


「……私も、その末裔。王都の“魔法研究機関”で、“封印の力の復活”を目指す研究体として育てられた」


「そんな……!」


「でも、ある日研究所が“暴走した”の。私の中にあった封印の力が、制御できなくなって……施設ごと、崩壊した」


 そこから逃げ出したユリスは、記憶を一部失いながら、この地方のダンジョンへと流れ着いたのだという。


(じゃあ、俺の《封印(S)》も……)


「君と私の力は、おそらく“同じ系統”……でも、あなたの方が“完全な継承者”だと思う」


 ユリスは静かに俺を見つめた。


「私が見たことがある文献に、“封印の真名”が記されていたわ。あなたのスキル《封印(S)》──本来の名は、《封神の契(フォース・オブ・エンシャント)》」


「……!」


「それは、神をも封じる者に与えられる、神話級スキル──」


 ⸻


 ユリスの告白から数日後。


 ギルドの裏庭で、俺はルナと訓練をしていた。


 だが彼女は、珍しく沈黙が多い。


「……どうかした?」


「……正直、焦ってるのよ。カイル」


「え?」


「私は、魔術師として必死に努力してきた。でも、あなたは……あっという間に私の“手の届かない場所”に行こうとしてる」


(そんなこと……)


「別に、恨んでるとかじゃない。むしろ嬉しい。でも──置いていかれるのは、少し怖い」


 ルナのその言葉が、なぜか胸に刺さった。


「……大丈夫。俺は、ひとりじゃもう戦わないって決めた。ルナがいなきゃ、俺も立っていられないよ」


「……馬鹿」


 ルナは少し涙ぐんで、それでも小さく笑った。


 ⸻


 その夜。


 ギルドの裏路地に、黒い影がひとつ、立っていた。


「……例の少年が、《封印者》の力を? 本当なら……“回収”だな」


 それは、王都直属の特務機関──“灰の狩人”のひとり。


「カイル・セレン……君が“完全な封印者”ならば、必ず連れ帰らねばならない」


 そして、彼の影が静かに夜に溶けた。


 ⸻


 翌朝、ギルドの掲示板に張り出された一枚の依頼が目に入った。


「“古代封印の神殿”、探索依頼……?」


 それは、王都から離れた廃墟の神殿で、不穏な魔力が観測されたため、調査してほしいという内容だった。


「もしかしたら、カイルのスキルに関わる“何か”があるかもしれない」


 ユリスがそう言った。


 そして、俺たち三人──


 カイル、ルナ、ユリスは、ついに“本当の冒険”へと旅立つことになる。


 封印の力が導く先にあるもの。


 それは、忘れ去られた神々の遺産か、それとも世界の崩壊か──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る