ごん狐 七
まさつき
七
「――とまあ、話はここまでさ」と、茂平おじいさんは話を終えて、煙管を一服つけました。
私は「それで、兵十はどうしたの? ごんも」とたずねました。
ここまで聞いた話では、ごんは、ぐったりと目をつぶったままうなずいて、それきりです。生きたものか死んだものか分かりません。兵十は、驚いたのか悲しんだのかもわかりません。
本当のところを、私は知りたいと思ったのです。
「兵十はな、ごんを、絞めた」
「えっ?」
「もう、長くはねえ。ごんを放っておいても、苦しむだけだ。せめてもの情けと、ひい爺さんは狐に、止めを刺しなすったのよ」
まさか兵十が、茂平おじいさんのおじいさんのお父さん、だったとは。
呆気にとられる私に、おじいさんは、さらに続きを話しました。
「それで兵十はな、ごんの皮をはいだ。狐の肉は病があるから、喰わずに捨てた。骨だけは山に帰して、石を積んでやったとさ。残った毛皮は――」
と、おじいさんは自分の襟元を指さします。
ふさふさとした狐毛の首巻きは、良く見れば小さな穴が空いていました。鉄砲で撃たれて、弾の抜けた穴なのでしょう。
「こうして代々、役に立っておる。これも供養というものだ」
「兵十はそれから?」
「加助の妹を娶ってな。子宝にも恵まれてそれなりに、幸せに、暮らしたよ」
おかげで儂もここにおる――そう笑って、茂平さんは煙管をもう一服つけました。
私は何となく、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして、とてもばつの悪い心持ちで、毛皮を眺めていました。
茂平さんは、言いました。
「まあ、こんな話は人にはそう、できん。ぼんやりと終わらせておくのがいいってもんだ。お前も人に話すのなら、ごんは撃たれてそれきりとだけに、しておきなさい」
私は、なるほどそうしよう、この話は自分の胸にだけしまっておこう。
そうとだけ、思いました。
<おしまい>
ごん狐 七 まさつき @masatsuki
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