第4話伝説のプレゼン資料『タイトルだけで3時間』

金曜日、午前10時。

「霧の中の納品作戦」がついに発動した。

三枝は架空のリリース資料を作成し、佐野は「顧客からのお祝いメール風テンプレ」を自分宛に送信。

久保は帳簿の“それっぽい数字”を用意し、田中は空のサーバーに謎のURLをでっちあげていた。

完璧だ。“なにもないもの”を、あたかも“あったこと”にする。

社長が持つ“虚構”の力に対抗できるのは、我々もまた“虚構”を使うしかない──!

そんな中、社長からSlackに一言だけ通知が入った。

ハルオ社長:あ、そういえば昔作ったプレゼン資料、みんなに見てほしいなーって思って送っとくね!PDFファイルが添付されていた。その名も──

『未来戦略構想2020-2045』

「おい……ファイルサイズ、やばくないか?」

佐野が眉をひそめる

「…265MB…?」

三枝が呟いた。

「動画入ってるとか?」

「むしろ、入っててほしいです」

だが開いてみると──ページ数は3枚

「うん、逆に怖い」

1ページ目には、こう書かれていた。

未来戦略構想2020-2045

by Haruo Mik

Vision:“どこよりも、はやく、どこよりも、おそい”

「矛盾してんだよ」

三枝が即ツッコミ。

「いや、もはや哲学だな。量子か?」

田中がノリ始める。

2ページ目は、さらに混乱を呼んだ。

【我が社の強み】

企画力(ある)

行動力(たぶんある)

忍耐力(他社より強いと“思われたい”)

革新性(新しければなんでもいい)

「全部、濁しすぎ!」

「逆に誠実かもしれない」

そして3ページ目。

プレゼンのラストには、なぜか一言だけ、こう書かれていた。

“最終的には、気合”

沈黙。

「えっと……?」

「これ、何の資料なんですか?」

「宗教です」

久保が断言した。

さらに、佐野がファイルのプロパティを確認すると、驚きの事実が判明する。

「これ……10年前に作られてる。2015年」

「じゃあ、“未来戦略2020-2045”って、本気で未来だった時代か」

「“Vision:どこよりもはやく、どこよりもおそい”って……つまり、進捗ゼロでも焦らない精神論を今から用意してたのかも……」

「恐るべし社長。10年先を行く、ただし10年遅れる」

その後、Slackにまた通知が。

ハルオ社長:

この資料、今後うちの会社の基盤にしていきたいと思ってる。

“気合”、忘れないでいこう!

「忘れさせてくれ」

結局、金曜リリースは社長のnote投稿をもって“達成”とされ、

プロダクトの影は一切市場に出ないまま、一週間が終わった。

だが、社員たちの胸には、確かに刻まれたのだった。

『気合で乗り切る虚無』

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