side ナガレ いや、お前のせいだって。
ガンズがテーブルから去った後、俺からはぁと溜め息が漏れ出た。
マシニアス技巧連合という国で活躍する、Sランク冒険者パーティ、「夢の翼」が俺たちだ。
このパーティは大和出身の俺が、ちょうどこの国に来た時にガンズと知り合い結成されたパーティだ。
ガンズはうちのパーティメンバーのなかでは俺とともに最古参であり、バッファーとしても非常に優秀であることには異論がない。
何なら俺だって数多く命を救われた経験がある。
顔もそこそこ整っており、普通に見れば女性にもモテるだろう。
ガンズにはああいったが、実際ガンズに出ていかれるとこのパーティの戦力は若干、いやかなり厳しいものがある。
じゃあ何故放り出したかって?
それには大きく分けて2つの理由があった。
まず一つ。
あいつ女の子にセクハラばっかしやがってよぉ!
そのせいでうちのパーティの士気が下がりっぱなしになってるんだよゴルァ!
女の子に触りたいとかそんぐらいなら可愛いもんだよ!
なんで胸揉もうとすんの!?
なんで堂々と触りたがんの!?
なんで風呂覗いてんだよ!?
そりゃちゃんとその子らに好かれて居るんならそんな訴えはなかった筈だ。
何処かの国では覚悟ガンギマリな王女様が平民の嫁でハーレムの一人になったとかは聞くが、そのぐらいの好感度がありゃ一切問題にはならないだろう。
なら何故?
答えは単純。
あいつについてうちのパーティメンバーが特に好感度が高くない。
ただそれだけ。
勘違いしてんのはテメェだっての!
女の子抱きたいなら色街行けや!
なんで「色街はちょっと…嫌かな。処女が良いよね。」って言ってんだよ!
ならもちょっとモテる努力しろや!
なお俺はこの方、モテたことのない童貞である。
考えていたらさらに頭痛が痛くなったので俺は頭を抱え、さらにはぁと溜め息をつく。
「あの…大丈夫ですか?ナガレさん。」
「ああ。あいつの事を考えたら頭痛くなってきた。」
魔法使いのカルアが俺を心配そうに覗き込む。
水色の髪がふわりと靡き、金木犀にも似たような香りが漂う。
水色の透き通る瞳がチャーミングで、小さな身体に莫大な魔力を持つ、このパーティの火力の要だ。
カルアも少し顔を曇らせ、申し訳なさそうに俺に頭を下げる。
悪ぃなぁ。こんな事をさせちまってよ。
「ごめんなさい。わたしがガンズさんに耐えきれないとか言い出さなければこんな事には…。」
「カルアのせいじゃないだろ。どう考えてもあいつが悪いだろうが。言い出してくれたカルアには感謝しかないぜ。」
「そーよカルア!あんな馬鹿に構ってる暇はないわ。あの馬鹿の眼、いっつも厭らしいのよ!…うちのパパの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいね。うちのパパ、いっつもママたちと顔紅くしてるんだから。」
うちのパーティの遠距離担当、モリアもせいせいしたと言わんばかりの口調だ。
モリアは橙の髪にガーネットのような目をした美少女だが、すらっとしていても出るとこはしっかり出ている少女で、よくガンズと一緒にいた。
幼馴染にまで嫌われてるなんて、まじであいつ何しでかしやがったんだよ!
俺はやるせなさから拳をぎゅっと握り締める。
「ソウダゾ、カルアノセイジャナイ。」
鎧に籠った独特の声が響く。
パーティメンバーの防御の要、キリだ。
彼女はパーティの中では性別不明を通しているが、俺にはパーティに入る時に一度だけ中身を見せてくれていた。
緑の髪が美しい、翡翠の瞳をした純粋なエルフだ。
身体つきも男好きするようなもので、どうやらそういった視線に耐えきれなくなり、鎧を常日頃から着るようになったらしい。
あいつなんで的確に地雷踏んでんだよ。
風呂を覗いてた事しっかりバレてんじゃねーか!
俺はさらに頭痛が増し、頭を抱え込む。
「ガンズさん、本当に大丈夫ですか?聖魔術で回復しましょうか?」
「ああ…できれば頼む…。」
パーティメンバーのルカが手を合わせると、俺の頭痛が和らいでいく。
ルカには何時もこうして貰うので、非常にありがたい存在だ。
聖魔術の使い手で、ちょうどアルカナ教国という国から出てきたタイミングで、パーティに加入してくれた女性だ。
聖魔術を行使でき、四肢の欠損にまで行かなければ怪我を癒す事の出来るという魔術の使い手。
彼女がいなければ、ドラゴンやクラーケンの討伐といった大きなクエストは出来なかっただろう。
まじであれは間違っても一人で挑むものではないと痛感させられた。
ほんの20年前には、単独で討伐ができたという報告が別の国で上がっていたが、多分そいつはバケモンに片足を突っ込んでるとしかいいようがない。
ルカ自身も心優しい女性で、ブロンドの髪と金色の瞳が神々しささえ感じる美女だ。
どうやってガンズは地雷を踏んだのか?
簡単だ。
わざと怪我をしまくったのだ。
いや、バレてんやて。
明らかに戦場でバフかけるつもりで敵陣ド真ん中に行く馬鹿が居るんだ。
あいつ自身の生存能力がゴキブリ並に高いせいでなんとか生き残ってルカに治療されているのを忘れないで欲しい。
「ほんと…どうしてこうなったんだかね?」
「全部とは言いませんが、ガンズさんのせいでしょう。」
「ガンズ、イヤ。」
「いーのよほっといて。あいつには挫折が必要なのよ。パパもママも言ってたわ。挫折があったから強くなれたって。」
「が…ガンズさんには、本当に申し訳ないと思ってるんです。でも…嫌なものは嫌なんです。」
「さすがにみんなに無茶言ってまではあいつを引き止めるわけにもいかねーよ。全く…少しはあいつも頭…冷やしてくれんかね?」
「無理でしょ。あいつは根っこから変わらなきゃ駄目よ。ほんと…バカなんだから。」
「…だろーなぁ。」
俺は再びふぅと溜め息をつくと、頼んでいたエールを呷る。
キンと冷えたエールは、喉をジュワァと刺激して、心地よい飲みごたえだ。
実はパーティメンバーには一言も伝えていないが、俺にはある力があった。
単純にいうと未来予知だ。
未来に起こり得る出来事を予測することが出来るのだが、断片的で非常に分かりづらい。
しかも突然に発動するから厄介なことこのうえない。
これは「スキル」という力で、人間には皆備わっている能力だ。
ガンズにもスキルあるんじゃないかって?
ああ、あいつにはない事が決まっている。
何故なら、あいつはエルフなのだ。
あいつ自身は自分を人間だと思い込んでいるが、あんなにバフ魔法使い熟せるのはエルフか「魔導賢者」位なものだ。
緑髪に緑目、耳が尖ってるって、お前明らかにエルフだろとしかいいようがない。
話が逸れた。
俺の未来予知で見えた映像。
それは、あいつを残しておけば、近い未来に誰かに唆されてパーティを裏切り、パーティ全員が奴隷に落ちるという未来だ。
当たらなければ良いかもしれないが、このスキルの厄介な所は現状から変えなければほぼ当たるという事実。
それが俺のスキルで見えてしまった未来なのだ。
本気で頭が痛くなりそうだが、こうするしかなかったのも事実だ。
「ガンズ…本当にごめんな。」
つい俺は呟き、酔いが回ったのかふっと意識を落としかける。
その時、見えた。
『ナガレ…ごめん。僕を…殺し…て…?』
そこに映像はない。
しかし、ガンズの声であった事は確かだ。
俺はその言葉に、すぐに酔いを覚ます。
「ど、どうしたんですか?」
いきなり飛び起きた俺に、ルカが驚く。
「いや、ちょっと飲み過ぎたかもしんねぇ。」
「無理もないでしょう。ガンズさんを追いだした後なのですから。」
ルカが俺を気遣ってくれるが、本当の事は言えない。
このままだと、俺がガンズを殺してしまう未来に辿りついてしまうだろう。
そんな事は、絶対にならないし、させない。
ガンズを追い出した後だが、あいつも立派な仲間だ。
そんな事は、絶対に許せない。
「待ってろ…ガンズ。助けなくて良いって言っても、もう遅いからな?」
いつか読んだ、魔王を倒した英雄のように。
絆を信じても良いじゃねぇか。
ざまぁなんてさせない。
ガンズは俺たちが…助け出す。
そんな物語の…はじまり、はじまり。
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お読みいただき、ありがとうございます。
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