となり

砂糖水

第1話 101号室

 最近は毎晩、隣の部屋からの物音のせいでよく眠れていない。

乱暴に踏みしめていく足音、力いっぱいぶつけられる壁とドア。

隣人は一度も顔を見たことがないが親しくなれるタイプではないことは明らかである。

私は生活費を惜しんで安アパートに住んでしまったことを後悔しながら布団の中で丸くなった。

何が楽しくて、こんな生活をしているんだろう。毎日30分かけて会社に行き、大体10時間くらい働いてまた30分かけて帰ってくる。たったそれだけの日々。

例の騒音のせいで常に寝不足で昼も夜も無い。生きている意味を考えることも無く、ただ呼吸して代謝するだけの器となり果てた。

 翌朝、眠い目をこすりながらもぞもぞと布団から這い出てけたたましく鳴り続けるアラームを止める。

朝になれば、隣人も大人しいものだ。

通勤のために玄関を出て、例の隣室の前を通った時だった。


 ドアが開いていた。


引っ越してきて5年ほどだが、初めてのことだった。

ふと出来心で中を覗いてしまった。


「あ、」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る