第2話 カフェ『RUHE』

「…………はぁ」



 三度みたび、暗鬱な息を零し歩を進めていく。……いや、分かってる。きっと、溜め息なんて吐くからいっそう鬱になっているんだと。……だけど、どうしても抑えられなくて。


 ……でも、そもそもなんでこんなに強いの? 昔も今もそうだけど、身体だって大きくない……どころか、同い年の女子と比べても身長も低く体重も軽い。かといって、筋肉質というわけでもなくむしろ華奢で……うん、正直なんでこんなに力だけが強いのか全く以て理解ができなくて。


 ……ひょっとして、いわゆる遺伝子エリートというやつ? ……いや、関係ないか。あと、だったらいらないよ。だったら他のとこに欲しかったよ。例えば、頭脳あたまとか……いや、別に馬鹿だとは思ってないけど。



 ……まあ、それはともあれ――


「……こっちに、行ってみようかな」


 ふと、十字路にて立ち止まる。……別に、理由なんてない。ただ、ちょっと気分を変えたかっただけ。このまま帰っても、どうせいっそう鬱になるだけだし。


 そういうわけで、いつもとは反対の方向へと足を進めていく。すると、しばらく経て視界に映ったのは、住宅街の狭間にひっそりと在する素朴な路地裏。別に家から遠くもないのに、意外にも初めて目にした光景に沁み沁みとしつつ足を踏み入れる。そして、和の風情を感じつつ細い道をしばらく歩くと、パッと視界が開ける。そこには、緑の溢れる穏やかな空間。そして、その真ん中の辺りには――



「…………カフェ?」



 そう、ポツリと呟く。眼前には、この空間に優しく溶け込む可愛い小屋。その上部に位置する看板には、これまた可愛い文字で『RUHE』と刻まれていて。……えっと、ルへ? ルーへ? ……まあ、それはともあれ――


「……入っても、いいのかな……?」


 一人呟きつつ、徐に近づいていく。……うん、いいよね? どういう種類ものかはまだ分からないけど、少なくともお店であることは間違いないだろうし。なので――


「……その、お邪魔しまーす」


 そう口にしつつ、おずおずと扉を開く。すると、視界には柾目が美しい素朴な空間。そして、カウンターの光景からもやはりカフェの類だろうと察しはついて……うん、好きだなぁこういう雰囲気かんじ。さて、どこに座ろうかな――



「……その、おかえりなさいお姉ちゃん!」


「…………へっ?」


 すると、不意に届いた衝撃の言葉。……あっ、ここってもしかしてそういうお店? こう、いわゆるメイドカフェ的な。……ただ、私の持つイメージと違うとすれば――目の前にいるのが、女の子ではなく男の子だということで。


 





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