第11話 お嬢様が求めるもの?

 イケメン女子たちは、自分たちの役目が終わったと言わんばかりに食事を終えた時点であっさりと帰ってしまった。


 西大路さんに頼まれて付き添ったんだろうけど、やり方が回りくどすぎる。


 ……それはそうと、


「そうそう、上手い上手い! 育ちがいいのね〜」


 マスターこと俺の母さんは、俺と一緒にいたいという西大路さんの言葉の意味をアルバイトがしたいと取り、彼女にエプロンと店で着るワイシャツを手渡した。


 西大路さんは何の迷いも見せず、渡されたワイシャツを受け取って満足そうにしている。その流れのままお皿の置き方やら何やらを実践しているわけだが、動きにまるで無駄がない。


 流石はイギリス育ちのお嬢様だと俺は素直に感心してしまった。ううむ、お皿をテーブルに置いてるだけなのに作法的なものも完璧だ。


 一方、俺はというと。


「あんたが先にワイシャツに着替えなくてどうするの! この場でいいから早く着替えなさい」


 イケメン女子たちを帰した後、母さんはすぐに店を閉め、早速西大路さんに仕事を教え始めたまではいいとして。


 西大路さんの視線が俺から外れている間に学校のシャツを脱いで、店員ワイシャツに着替え直そうとしているわけだが、直後に声をかけられるとは思うはずもなく。


「あ、あのあのあの……マスターさんが、孝純さんに教わってと言ってましましまし」


 俺を見る西大路さんの様子が何やらおかしい――というか、さっきまでいなかったのにどこから出てきたのやら。


「はわわわ……ボ、ボタンがぁぁ~」

「あ、悪い、シャツのボタンがズレてたな。ごめんすぐかけ直す」


 西大路さんに手取り足取り教えようとする前に俺の身だしなみが崩れていた。


「は、はわぁ~……不意打ちなんてズルいです」


 慌ててシャツのボタンをかけ直ししようと手をかけるが、西大路さんの様子がさらにおかしい。


「す、隙間から孝純さんのお腹がお腹が……」

「ごっ、ごめん!!」


 俺のだらしない腹を見せたせいか、彼女は両手で顔を隠した状態で動かなくなってしまった。


 このままだと母さんに怒られてしまう。というわけで、俺は逃げるようにトイレに逃げ込んだ。


「あぅぅ~……びっくりしちゃった。あれっ? 孝純さんは?」


 俺がトイレに逃げ込んだ後、俺がいなくなったことに気づかない西大路さんの声だけが聞こえてくる。


「どうしよどうしよ。色白なのに腹筋はきちんと割れてるなんて、どうしよう……孝純さんが気になって仕方がないよ。どんな目で見たらいいの~?」


 このまま逃げ続けても仕方がないのですぐに彼女の前に出ることに。


「……悪い、きちんと直してきたから――って、まだ顔を隠してる?」

「ひっ!」


 トイレから出た俺に気づいた西大路さんはまたしてもすぐに顔を隠し、俺を見ないようにしている。


「だって、今のままじゃとてもじゃないですけど、孝純さんなんて見れたものじゃありませんから」

「ぐふっ」


 そんなに酷かったのか。これはキツイぞ流石に。自分じゃ気づかないけど、そこまでお粗末だったのか俺の腹は。


「……申し訳ない」

「ちがちがちが、違うんです本当です!」


 どっちが本当なんだ?


 しかし、ここまで取り乱す西大路さんの姿を見るのは初めてかもしれないな。何せ今まで俺に対しかなりの塩い対応で対応してきているわけだし。


 言葉の使い方は相変わらず意味不明なところがあるが、素直に見れば可愛い子だと思える。


 ……とはいえ、俺を求めていたにしては辛口なんだよな。その辺りをきちんと訊いておかないと俺の気持ちも前向きな方に傾いていきそうにないんだが。


「西大路さんって、俺に何を求めてるのかな?」

「えっ」

「いや、俺を注文してたでしょ? マスターに」


 言った覚えはありませんといった顔になっているが、またしても心を閉ざした?


「ウチの店でアルバイトをしたいというのは分かったんだけど、俺が欲しいとか注文しますとか……その意味は何なのかなと思って」

「――あ。孝純さんを求めていたのは、えっとえっと……店員さんだと思ったので、孝純さんという物体を求めていまして~つまり~」


 物体かよ。


 ……もはや人じゃなかった。


「店員のはずの孝純さんという何かを求めたら、わたしも同じようになれるのかなと思いまして、マスターさんにお願いしちゃったんです。駄目、でした?」


 上目遣いで俺を見てくるが、その使い方は多分間違っている。


「つまり、俺そのものというよりは店員という姿を求めていた……でいいのかな?」

「ですです~! よく分かりましたね!」

「……うん」


 俺そのものじゃなかった、というか当たり前だろうけど。俺にの感情があっての言葉だとしたら、それはあまりに日が浅すぎるというもの。


 せいぜい隣の席にしかなっていないわけだし、塩対応オンリーだし俺に特別な気持ちが芽生える要素なんて今のところ全くないに等しいからな。


「えへへ~孝純さん流石です~」

「――ぅ?」


 何か頭を撫でられているんだが、今度は小動物扱いですか?


「いい子にはナデナデです~」

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