第10話 イケメン女子とお嬢様が 2

 俺の家を通り過ぎ、西大路さんとお付きのイケメン女子たちは、俺の親がやっている古民家カフェに入った。


 それ自体は別に何の問題もない――が。


「で? どの子が彼女なの?」

「……どの子でもないよ、マスター」

「またまたぁ~。あんなに沢山の女の子たちをお店に連れてきといて、誰でもないってそんなわけないじゃん! 教えてくれたらその子にだけサービスしちゃうよ? さぁ、孝純! 素直に白状なさい!!」


 ……だから来たくなかったんだ。


 同じ敷地内にある古民家カフェは、俺の母が一人で切り盛りしている。時々小遣い稼ぎで店に行くこともあるが、真琴すら一緒に立ち入らない場所だ。


 それなのに突然誰かを、それも複数の女子を連れて行けば店主という名のマスターである母が興味を持つのは当然というか必然なわけで。


 母親からの質問も厄介な問題だが、さらに厄介なのが西大路さんの動きだ。俺の親が経営をしているのを知ってか知らずか、やたらと店内を眺めまくってはメモを取り、親に笑顔を注ぎまくっているのだから何を考えているのかさっぱり分からない。


「素敵なお店をお一人でやられているなんて、大変ではないですか? 他にお手伝いさんはいらっしゃらないのですか?」


 店の内装やら何やらに興味があるのか、西大路さんの質問攻めは途切れることがないが、イケメン女子たちはまるで関心がないのかひたすらメニューを見続けている。


 そしてなぜか、案内した俺をずっと睨みまくっている。


 ……俺、何もしてないよな?


「あら、お嬢さん。もしかしてお店に興味あるの?」

「はい! こちらで動くことになりましたら、秘密を知ることが出来るのかなって思ったです。それと、ご飯をよそって欲しいです」

「……え? ご飯を?」


 西大路さんの言葉は相変わらず意味が分からないし、何を狙っての発言なのか意味不明だ。親も流石に首をかしげているようだ。


 そして何でか俺を見て頷き、何かを悟ったかのような表情で西大路さんに笑顔を向けている。


「ははぁ、なるほどね。そうなると、お嬢さんが本命なのね?」

「はい、本番です」

「ほ、本番……?」


 おい、俺を見るなよ。本番という言葉に大した意味なんて無いと思うし、絶対何もない言葉だぞ。


「そこの暇な男子店員! ウチらの注文受けて欲しいんだけど?」

「……俺は店員じゃない」

「店に案内しといて無関係とか嘘を言うなよ、。ねえ、お姉さん?」

「――お、お姉さん……ええ、そうなの。孝純はうちの戦力なの。ごめんなさいね、今すぐ注文を受け付けてもらうから」


 くそっ、あいつらの口車にまんまと乗せられるとかしっかりしてくれよ。


 仕方がないのでイケメン女子たちのうるさい注文を受け、マスターに伝えた。これを受けたところでひとまずマスターは厨房に向かった。


 ホールにいられると色々勘繰られて厄介だからある意味助かった。


「店員さんなんですか、孝純さん?」

「……多分」


 時々手伝っているから嘘でもないだろうし、上手く答えようがない質問だな。


「わたしもいいですか?」


 西大路さんは右手を上げ、遠慮なしに注文してくる。


「注文か?」

「いいえ、わたしも孝純さんのようになりたいです」

「……俺のように? って、どういう意味で?」

「孝純さんのような立場でここにいたいです」


 要するに店員になりたいと、そういう意味だろうな。だけど、俺が決めれることじゃないし西大路さんに言われたからってマスターがいいと言うかどうか。


「と、取りあえず、何か注文すればいいんじゃないかな?」


 注文を訊くだけなら俺でも出来るが、料理はマスターが直接運んでくるわけだから、その時に直接言ってもらったほうが確率は上がる。


「孝純さんがいいです」

「いや、俺じゃなくてね」

「ですから、孝純さんがいいです」

「…………えっと」


 言葉足らずなのは理解しているが、俺の立場という意味だとしても完全なる店員でもないし、一体どういう意味でこんなことを言っているのか。


「おい、孝純。お嬢様の注文を素直にモグ……受けてやりなよ」

「そうだぞ、孝純。ズズッ……お嬢様が言う言葉は絶対なんだ。何も疑うことなく黙って聞いとけよ、孝純」

「食べるか喋るかどっちかにしろよお前ら」


 西大路さんにイケメン女子たちがついてきたのは援護射撃みたいな役割があるからだな。仮に西大路さんひとりだけなら、俺に対してここまで強くお願いをしてこないはず。


 もっとも、何を言ってるのか意味不明で終わりそうだけど。


「お嬢さん。あなたは何を注文するのかな?」

「孝純さんです」

「……うん? 孝純……って、そこに立っている?」


 それじゃねえよ。


「はい。孝純さんを注文します」


 もう何が何だか分からないが、絶対に言葉を省略しているはずだし、俺が西大路さんの言葉を翻訳するしかないんだろうな。


「あ~、マスター。彼女の言葉の意味は、俺というか店員というものになりたいって意味なんだ。だからつまり、彼女はここで働きたいらしいぞ」

「あら、そうなの?」


 俺とマスターで西大路さんを見るが、西大路さんは首を何度も振りながら。


「孝純さんを注文するので、そしたらわたしの体も使って欲しいです!」

「……うん。え~と、アルバイトをしたいのね。うん、理解理解……」


 何でそれで分かるんだよ。


「孝純はお嬢さんにつきっきりで相手しておいてくれる? 多分それが正解だから」

「……分かった」

「それじゃ、孝純。任せたから」


 マスター兼母親は逃げるようにして厨房に引っ込んだ。


「ご注文頂きました俺ですが、お嬢様、何を望まれますか?」

「一緒にいて欲しいです。一緒に食べたいです」


 ……深い意味は無いな、うん。


「根性出して注文に応えてみなよ、バカ孝純」

「誤魔化すなんて男らしくないぞ~」


 隣のテーブル席のイケ女子たちからは冷やかしの声が聞こえてくる。どういう意味があるのか不明すぎるが、とりあえず西大路さんの正面に座ってみることにした。

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