枯れない恋を知らない彼女に

氷山 拓郎

第1話 始まり

俺には初恋の人がいる。


あれは小学生の頃、名前がよく思い出せないんだけれど、確か「ひなちゃん」と呼んでた気がする。


白いワンピースに麦わら帽子の姿が良く似合う可愛らしい子だった。


近所に住んでいたのもあってか親同士も仲良くて、よく遊んでいるうちに段々と好きになっていた。


だけど、俺が小学4年生になった時、ひなちゃんは親の転勤で引っ越してしまった。


そこで俺は、告白も出来ずに初恋を終えてしまったんだ──────






枯れない恋を知らない彼女に


第1話 始まり






春風が頬にかかる季節、俺は入学式当日の朝に初恋の人の懐かしい夢を見た。


「……久しぶりに見たな、ひなちゃんの夢……」


確かにひなちゃんが引っ越してから少しの間は夢に出てきていたが、なぜこの夢をまた見てしまったんだろう。環境の変化は人間にとってストレスがかかると言うし、ストレス反応の一部なんだろうか……


「まあなんでもいいか……って、やべっ!もう7時!?このままじゃ初日から遅れる!」


俺、赤城 康太が今日から通う宮岡高等学校は家から自転車で1時間近くかかる。初日から遅刻なんて言ったら笑い物所じゃない。最悪高校3年間ろくな思い出にならないかもしれない。


なんとしてでもそれだけは避けなくてはならない。高校こそ友人や彼女を作って、ドラマのようなキラキラした青春を過ごさなくてはならないのだ。


「ハァ……ハァ……校門……っ!!見えてきたっっ!!」


学校の外に立っている時計を見てもなんとか走れば間に合いそうだ。即座に自転車を駐輪場に置き、全速力で教室に向かって走る。時計を見てもあと1分ある。1年の教室の外に貼られている座席表を高速で見てクラスを把握する。両親の離婚で苗字が変わり、名前がア行になった事で直ぐに分かった。後は自分の席に着くだけ。


「間に合った、ああああ!!!」


ドガシャーン!!と音を立てながら滑った勢いで盛大にコケてしまった。案の定周りからクスクスと聞こえてくる。あーあ、赤城 康太15歳、初日からドジのレッテル貼られたなこりゃ。


「ブフッ……だ、大丈夫……?フッ……フフフッ」


なんなんだ、その初対面の人間をバカにしたいのか、心配してあげたいのか分からない態度は。


「あっ……えーとっ……大丈────」


俺を嘲笑ちょうしょうする奴はどんな奴なのか、クラスメイトとして見てやろうとして顔を上げた瞬間、何処かで感じた感覚にその場で固まってしまった。


「え、あ、あの、君どこかで─────」


キーンコーンカーンコーン。俺を見下す美少女に、どこかで合わなかったか?と聞こうとした時、タイミング悪く鐘が鳴ってしまった。まあ後で聞けば良いだろう。同じクラスなんだ。幾らでも機会はある。







……そんなこんなで、既視感なんて完全に忘れてしまい、時期は高校2年生の秋に差し掛かっていた。


「赤城っち〜!一緒にいつもの場所でお弁当食べよ〜!」


こいつは黒澤 緋鞠。高一の時に俺と同じクラスで、2番目に出来た友人でもある。最初のインパクトがツボに刺さったらしく、当日の放課後に向こうから話しかけてきてくれた。


容姿は金髪ポニーテールの至る所が派手な……世間一般で言うギャルで、最初話しかけられた時は何かされるんじゃないかとビクビクした。仕方ない、陰キャだもの。


だけれど、話してみると意外と常識人だったり、趣味が合ったりと今では数少ない俺の友人だ。


そして"いつもの場所"というのは、隣の校舎にある空き教室の事で、昼は誰も使ってない事を良い事に俺らの昼飯を食べる場所にしている。


「はい、赤城っち〜。あ〜ん。」


「やめなさい。そういうのは安売りするもんじゃないのよ。」


勘違いするから。心臓に悪いから。


「ちぇ〜。少しはノリなさいよ〜。モテないぞ〜!」


黒澤は頬を膨らませながら、俺の口の前に持ってきていただし巻き玉子を口に運んだ。そんな他愛もないやり取りをしていたら、ガラガラと少し立て付けの悪い空き教室のドアが開く音がした。


「もう食い始めてんのかよ〜……お前ら昼休み始まってから教室出るまで早すぎだろ〜……」


今入って来たこいつは緑川 光輝。こいつは2年連続同じクラスで、なんと苗字が前の俺の苗字と一緒なのだ。初日からシンパシー感じて話しかけに行ったのも懐かしい。そんでなんと言っても、俺と違ってイケメンなのだ。……俺の周りは美男美女が集まりやすいのか?


「てか、また2人でイチャイチャしてんのかよ……頼むから、するなら放課後とかにしてくれ……」


「してねぇわ!……それより、早く食べちゃおうぜ。今日の5時限目の体育、長距離走らしいぞ。」


「げっ!長距離走!?そういえばもうマラソン大会の時期じゃんかよ〜……そうだ、私達3人でサボっちゃおうぜ〜5時限目!」


「そう言いつつまた康太と2人きりになりたいだけだろ〜?」


そんな冗談を叩き合って昼食を済ませていると、今度はガタガタッと慌ただしく


ドアが開く音がした。ああ、このドアの開け方は─────


「おーい、赤城く〜ん。いるでしょ〜?」


こいつは青崎 陽菜。入学式の日、わざわざ俺を見下してきた張本人だ。周りのヤツには敬語なのに、俺にだけ何故かタメ口。完全に下に見られている。……でも、実際学年で1番の美少女だし、勉強も出来る。運動音痴なところはあるが、寧ろそれが可愛いと男女問わず人気がある人だ。正直、俺が最底辺に見られていても仕方ない。


「なに、青崎さん。てか、よくこの場所にいるって分かったね?」


「私の人脈ネットワークを使えば、赤城くんが今校内のどこにいるかの大体の特定は余裕よ。それより、委員会の荷物で持って欲しいものがあるの。協力して頂戴。」


半強制じゃねぇか。正直、偶にコイツに奴隷とでも思われているんじゃないかと不安になる事はある。でも、なんだかんだ入学してから、コイツのこの強引さに助けられたり、優しかったりする所が……あれ?


「……え、……ねえ、私の話聞いてた?」


「……ああ、つまり赤いき○ねより緑のた○きが最高って事だろ?」


「はあ……全然違うし何それ。そうじゃなくて、私とデートに行きなさいって言ってんの。わかる?」


なるほど、デート。デートか。デートね。


「……はぁ!?で、デート!?!?こりゃ、またなんで!?!?」


意味わからん!どうしてデートなんかする事になってんだ!?


「嫌なら別にいいけど。」


「いえ!有難く行かせて頂きます!!」


こうして俺は、なんの前触れもなく、青崎との……女の子との"初"デートをする事になってしまった─────

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