第二話 願い下げの再会

「やっぱり! この前死のうとして た人だよね!」

「なに、また自殺失敗したの?」

 閑静なロビーに鳴り響いたデリカシーのない言葉。辺りの人たちは皆、こちらを向いた。完全な誤算だ。無駄な人付き合いや注目を避けたくて入院することにしたのに。

 

「ちょっとこっち来て!」

 病み上がり、いや絶賛病を抱え中の僕は少し無理をして、彼女の手を引いて中庭まで移動した。

 先日では暗くてよく見えなかったのだが、改めて見る彼女はか細く、幼くも見えるが、成人しているようにも見える。また、身に纏った衣服から彼女も入院患者のようだ。

「そのー……。さっきはごめんね……」

 少しだけバツの悪そうな彼女を見て、僕は「あ、うん」と気の抜けた返事をした。年齢が分からないので、敬語で話せばいいのか。僕は内心でたじろいだ。

 それに、彼女のよく言えばフレンドリーな語り口調に少し気後れしている。

「で、なんであなたはここに?

 見た感じだと入院してそうだけど。」

「質問に質問をぶつけて申し訳ないのだけど、君こそなんでここに?」

「ちょっと! か弱い女の子にそんなデリケートな質問はないん+じゃない?」

 右手の人差し指を自らの口元に持ってくる彼女に、思わず「ウザッ」という言葉が口に出かけていたが、飲み込んだ。

「あ、うん。 まぁいっか。 僕は余命宣告を受けたので、入院することになった。」

 唐突かつ、極めて重い言葉で少しは彼女の様子も落ち着くだろうと期待したが、無意味だった。

「良かったじゃん!」

 僕の言葉を聞いた彼女の眼はなぜか輝いていた。それどころか僕の手を握ってきた。僕は素早くその手を払いのける。

「おい! なんだよ、それ」

「死のうとしてたんでしょ?」

「いや、 まぁそうだけど。」

 大抵こういう重い言葉を口にした時の相手のリアクションは、先ほどの若い看護師のようなものだと思っていたので、驚いた。

 目の前の彼女は近くの椅子に腰かけ、トントンと隣の椅子を指さした。もちろん僕は無視をする。ㇺッとした彼女は次の思いついたかのように僕に次の質問を投げかけた。

「そういえばあなた、 名前は?」 

「金田。」

 口を尖らせ、不機嫌そうな彼女に仕方なく下の名前を教えた。

「幸彦かぁ。 あんまり幸せは感じないけどね、 顔からは。」

 失礼な言葉に一々リアクションをとっていては彼女の思う壺である。僕は自分の病室に戻ろうと体の向きを変えた。

「いや、名前! 私の名前は聞かないの?」

「興味ない。僕は君の言った通り、勝手にここで死ぬので」


 彼女に背中を向け、歩く僕に何やらワンワンと喚く彼女。そんな彼女を突き放すように僕は言った。

「今度こそは死ぬ邪魔をしないで欲しい。」

 僕の誰にも干渉されず、死を迎える計画を邪魔されるわけにはいかない。僕は彼女の一連の行動と言動に若干の憤りを感じながら病室へと帰った。

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