蒼(あめ)

ǝı̣ɹʎʞ

翌日。空には元気いっぱいの太陽が、優しく私を嗤っていました。

 涔々——。そう書いて、しんしん。そんな静けさと湿気を纏って、私の目を醒ます。

 ——おでかけ、しよう?

 異様にダボった純白無地のシャツは、サイズの所為か、からだの所為か。水色の髪が、細雨のように枝垂れて、私の頬に着地する。擽ったい。まだまだ眠いってのに、身体が彼女の為に起きる。洗顔、歯磨き、朝餉の準備。総ての行動に彼女が付随する。ちまちま、ちょこちょこ、しんしんと。

 電気の点いていない部屋。仄暗くて、青みがかって、なのにみたい。外は雨。涔々と、じめったい。髪がボサついて、厭になって頭をかく。ううん。

 ——あさごはん、なに?

 ただトーストを焼いて、トレーに載せて、そこにゼリーを置いただけ。ただ、それだけ。トレーを持って、ダイニング。電気も点けずに、手を合わせる。いただきます。

 ——おでかけ、まだ?

 分かってるよ。朝餉をちゃっちゃと済ませて、早着替え。私も同じ、白のシャツ。着た切り雀とは言わずとも、もっとお洒落、したいのに。

 雨。あめ。扉一枚向こうから、地面と遊ぶ音が聴こえる。晴れてるよりも好きだから、内心、少しはうきうきと。傘を差すのは厭だけど。

 扉を開けて、外へ出る。柄は木製、黒の傘。横でちゃぷちゃぷ、水溜まり。こら、靴が汚れるよ。

 ——雨だね。

 うん、雨だね。

 涔々——。霧雨のようでも、バケツを返したようでもない、ほど好い翠雨。人気のない、散歩道。光の反射、アスファルト。彼女あめが横で、はしゃいでる。

 その姿が、憎らしいほど可愛くて、愛おしくて。

 ——また、来年だね。

 透けた色のレインコート。同色だった長靴が、ちょっぴり土に汚れてる。相変わらずぶかぶかなのは、きっと華奢なからだの所為だ。ああ、なんて可愛いんだろうね。

「来年はもっと、長く居たいな」

 そうやって、欲望を吐く。

 ——だめだよ。みんな雨は、きらいだから。

 そうやって、焦らされる。

 私は君が、好きなのに。

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蒼(あめ) ǝı̣ɹʎʞ @dark_blue_nurse

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